八つ当たりする魚
先導科学研究科生命共生体進化学専攻 伊藤宗彦
八つ当たりする魚
先導科学研究科生命共生体進化学専攻 伊藤宗彦
総研大本部の葉山キャンパスで研究を行っている生命共生体進化学専攻博士後期課程2年の伊藤宗彦さんにインタビューを行いました。伊藤さんは行動観察とコンピューターシミュレーションによって、シクリッドと呼ばれる魚類を対象に社会行動の研究をされています。今回のインタビューでは、伊藤さんの研究内容や将来のことなどについて伺いました。
Q:総研大に進学した理由は何ですか?
A:行動生態学の研究ができること、飼育室など研究環境が整っていることが総研大を選んだ決め手でした。私は学部ではカエル、修士ではグッピーについてそれぞれ生態や行動に関わる研究をやっていたので、魚類もしくは両生類のいずれかの行動に関して、もう少し深く研究をしたいと考えていました。秋葉原で行われた生命共生体進化学専攻の説明会で現在の指導教員の話を聞き、その後、実際に研究室に行ってみました。その際、総研大の充実した設備、リサーチアシスタントや研究活動に関わる旅費の支援などの経済的支援、数理生物学や分子進化学の研究者との交流のしやすさを魅力に感じました。充実した研究環境のなかで、自分がしたいように研究ができるということは、非常に恵まれていると思います。
Q:どんな研究をされていますか?
研究室のシクリッド(カワスズメ科魚類)
A:群れを作る動物では、劣位個体は群れにいることによって、捕食者から狙われにくくなることや餌資源を見つけやすいという利益があります。しかし、劣位個体は繁殖が抑制されたり、優位個体から攻撃を受けたりすることもあります。群れに留まるために、劣位個体は優位個体との対立を軽減させる様々な対立緩和行動を行うと考えられます。
対立緩和行動の一つに、八つ当たり行動 (redirected aggression) があると私たちは考えています。八つ当たり行動とは、攻撃が起きた直後に、攻撃を受けた個体が関係のない第三者個体を攻撃することです。その機能としては、周囲の個体に自分の強さを示し、他個体から攻撃を受けにくくしている可能性があります。
行動実験の様子
こういった行動に対して、私はシクリッドと呼ばれる魚を用いて研究を行っています。シクリッドは、卵や稚魚を口内で保育するマウスブリーディングという行動をはじめとして、様々な興味深い生態を持つことが知られており、行動生態学や進化生物学の分野ではよく研究対象となる種です。このような特徴をもつ魚類を用いて、行動実験により得られた実測値と、コンピューターシミュレーションにより得られたデータの比較を行い、八つ当たり行動を行っているかどうかを検証しました。その結果、実際にそういった行動が起こっている可能性が高いことが分かってきました。現在は、八つ当たり行動にどのような機能があるのかを検討しています。
Q:総研大の授業を受けた感想を教えてください。
A:非常にバラエティに富んでいますし、今後の自分のためになる授業が多いです。例えば、科学英語のプレゼンテーションの授業では、講義と実習でどういったプレゼンテーションが求められるかを学びました。この授業の最終日には、それまでに学んだ知識を活かし、多くの欧米からの研究者の前での発表を行いました。国際学会で発表する数ヶ月前だったので、良いトレーニングの機会となり、また、英語でのプレゼンテーションに自信がつきました。このように、総研大では有意義な授業が多数あり、研究者を目指す人にとっては非常に恵まれた環境が与えられています。
Q:休日はどのように過ごされていますか?
シクリッドの種類について話をされる伊藤さん
A:環境教育に関わるイベントでスタッフをしたり、家で飼育しているシクリッドの世話をしたりしていますね。あと、休みが合ったりしたときには、学生同士で近くの鎌倉駅や逗子駅に食事に行ったりしています。
環境教育のイベントはNPO法人が企画に関わっており、私はそのNPO法人に修士課程のときから所属しています。環境月間である6月には、NHKが主催する環境教育イベントに参加しました。その際、低学年の小学生や幼稚園児たちにどんぐりを使った工作や飛ぶタネの模型作りを教えました。
Q:学位取得以降はどのようにお考えですか?
A:博物館や大学などに就職したいと思っています。また、環境教育に関心があるので、そういった研究機関で研究を続けながら、工作教室や生き物教室などを通して、子供たちに生物の不思議や面白さを伝えていきたいですね。
Q:博士課程を目指す後輩へのアドバイスをお願いします。
A:博士課程で研究をしていく上で、環境はとても重要です。なので、単に大学名で選ぶのではなく、自分の興味を追求できる研究室を選ぶといいと思います。
生命共生体進化学専攻では自分の研究分野とは異なる研究者と交流がしやすいです。そのため、他の分野の研究者から予想もしなかったようなアドバイスをもらいやすく、より広い視点から自分の研究を進めることができます。
‐インタビューを終えて‐
このインタビューは、伊藤さんが所属する研究室が所有する魚類の飼育室で行いました。室内には多くの水槽があり、複数の種類のシクリッドが数多く飼育されていました。良い研究環境でのびのびと研究していることや、その研究内容について楽しそうに話をしてくださった姿が印象的でした。また、伊藤さんのように生物を専門として研究をしている人が環境教育を行っていくことで、子どもたちに対して、より深く生物の面白さを伝えることができるのではないでしょうか。
伊藤宗彦
所属: 総合研究大学院大学 先導科学研究科生命共生体進化学専攻
専門: 行動生態学
平成22年3月早稲田大学人間科学部人間環境科学科卒業、平成24年3月東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻生物学コース修了、平成25年4月より総合研究大学院大学生命科学研究科生命共生体進化学専攻博士後期課程。