地衣類は菌類と藻類の栄養授受を通して共生関係が維持されることから、今回明らかにした栄養授受に関与する遺伝子は菌類と藻類という異なる生物が一つの共生体として生活するのに根幹的な働きを担うと考えられます。また今回の研究で確立した「再合成地衣体を用いた地衣類の全遺伝子発現を調べる実験系」は、今後の地衣類研究の発展のみならず、生物における共生現象解明の上でも大きく貢献すると期待されます。
本研究では地衣類のハコネサルオガセを構成する共生菌と共生藻の全ゲノムを解明することにより、初めて全遺伝子を用いた地衣類の遺伝子発現を調べることを可能としました。また、野生下の地衣体に比べてシンプルな地衣類の再合成系を用いることで、単独状態から共生状態へとその生活様式を大きく変化させる際の遺伝子発現変動を、より詳細に調べることができました。本研究で確立した「再合成地衣体を用いた地衣類の全遺伝子発現を調べる実験系」は、地衣類の共生のメカニズムを研究するためのモデルになると考えられ、今後の地衣類研究の発展のみならず、生物における共生現象解明の上でも大きく貢献すると期待されます。