2023.10.06

ヒストンメチル化酵素を条件的に分解できる細胞株の作製

SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2023

中村凜子

基礎生物学

分解タグを付加したSUV39H1は条件的に分解される

ヒト培養細胞において、ヒストンメチル化酵素SUV39H1をコードする遺伝子に分解タグを付加した。オーキシンの存在下で細胞を培養するとSUV39H1が分解された。

細胞核の中で、DNAはヒストンというタンパク質と共にクロマチンと呼ばれる複合体を形成しています。クロマチンが高度に凝縮した構造であるヘテロクロマチンは、遺伝子発現を抑制する、ゲノムDNAの安定性を保つといった重要な機能を持ちます。このヘテロクロマチンの形成には、ヒストンメチル化酵素が関与しています。

ヒストンメチル化酵素SUV39H1がオーキシンという物質の添加によって分解されるようなヒト細胞株を、ゲノム編集技術によって作製しました。細胞にオーキシンを加えて培養すると、数時間のうちにSUV39H1が分解され、検出されなくなりました。

今回樹立した細胞株を用いて、細胞内のSUV39H1を条件的に分解することで、SUV39H1の生理的意義を明らかにできると考えられます。また、今後はこの細胞株を用いて、例えば一部の機能を欠損したSUV39H1を産生させることで、その機能の欠損が細胞内のヘテロクロマチン形成にどのように影響するかを調べることが可能になります。ヘテロクロマチンによる遺伝子発現抑制は細胞のガン化の原因でもあるため、ヘテロクロマチン形成の仕組みが解明すれば、治療法の開発に繋がることが期待されます。

派遣先滞在期間

Date of Departure: 2023/06/01
Date of Return: 2023/07/31

国、都市等

アメリカ合衆国

機関名、受入先、会議名等

Department of Molecular Biosciences
University of Kansas

‍派遣中に学んだことや得られたもの

派遣中は、培養細胞株の確立法などの実験技術を習得すると同時に、アメリカでの研究生活を体験することができました。また、寮のルームメイトをはじめ研究室内外の学生たちが、価値観が変わるほどフレンドリーで親切に接してくれました。国籍の異なる友人たちとの交流は、今回の海外派遣で得られたかけがえのない経験です。

生命科学研究科 基礎生物学専攻 中村凛子

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