2022.05.27

【プレスリリース】多波長観測が解き明かす、遠方宇宙の星形成活動の終焉

多波長観測が解き明かす、遠方宇宙の星形成活動の終焉:
銀河の成長を妨げたのはブラックホールか?

多波長サーベイによる膨大な観測データを用いて、遠い過去に星形成活動を終えた多数の銀河のサンプルを解析した結果、そのような銀河の中心には超巨大ブラックホールが一般的に存在することが明らかになりました。宇宙初期の銀河において、星形成活動の終焉とブラックホールとの間に強い関連があることを示す研究結果です。

銀河にはさまざまな形のものがあります。そのうち、恒星が回転楕円体状に集まっていて渦状の腕などの構造を持たない楕円銀河では、星形成活動が起きていません。なぜ楕円銀河が星形成活動を止めたのかはまだわかっていませんが、星形成が止まった頃の銀河の性質を詳細に調べれば、その理由のヒントが見つかるかもしれません。

総合研究大学院大学の大学院生(研究当時)の伊藤慧(いとう けい)さんを中心とする研究チームは、X線から電波までの多波長で集中的に実施されたサーベイ観測COSMOSの観測データを改めて解析しました。すばる望遠鏡などの観測で、遠い過去に星形成を終えた銀河を選び出し、それらの銀河の位置でのX線や電波の強度を重ね合わせたところ、このような銀河は一般的にX線や電波を放射していることが明らかになりました。解析で得られたX線や電波の放射強度は、銀河に含まれる星から期待されるよりも強く、銀河中心に存在する超巨大ブラックホールの活動によるものが主だと推測されます。宇宙の初期において星形成活動が止まる原因が、超巨大ブラックホールの活動性と関連があるのではないかと考えられます。

本研究成果は、銀河中心の超巨大ブラックホールが銀河での星生成を止めた可能性を示唆していますが、具体的にブラックホールがどのように星形成を止めたのかは、この研究だけからはわかりません。その具体的な過程を明らかにするため、研究チームは今後も調査を続ける予定です。

本研究成果は、(Ito et al. "COSMOS2020: Ubiquitous AGN Activity of Massive Quiescent Galaxies at 0 < z < 5 Revealed by X-Ray and Radio Stacking")として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2022年4月12日付で掲載されました。

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画像:すばる望遠鏡などの観測によって選び出された、約100億年前に星形成を終えた銀河たち(周囲の拡大パネル内の赤色の天体)。これらの天体は、さまざまな望遠鏡を用いた多波長サーベイCOSMOSの観測データを用いて調査されました。中央は、COSMOSが調べた領域の広域画像。(クレジット:国立天文台)

論文情報

  • 論文タイトル
    COSMOS2020: Ubiquitous AGN Activity of Massive Quiescent Galaxies at 0 < z < 5 Revealed by X-Ray and Radio Stacking
  • 掲載誌: The Astrophysical Journal
  • DOI: https://doi.org/10.48550/arXiv.2203.04322

連絡先

  • 研究内容に関すること
    東京大学 日本学術振興会 特別研究員 伊藤慧
    電子メール: kei.ito@astron.s.u-tokyo.ac.jp
  • 報道担当
    国立大学法人 総合研究大学院大学 総合企画課 広報社会連携係
    電子メール: kouhou1@ml.soken.ac.jp

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