総合研究大学院大学(以下、総研大)は、大学共同 利用機関という研究所などを基盤とする専攻と、大 学本部に直結した先導科学研究科からなる、学部を 持たない大学院だけの大学です。大学共同利用機関 とは、各研究分野において日本全国の大学が共同で 利用できる研究所であり、これらの機関は、それぞ れの研究分野の拠点として最先端の研究を行いながら、研究者コミュニティの中核となり、国際的な共同研 究も推進しています。先導科学研究科は、このような基盤機関を持ちませんが、葉山の地で、生物の進 化と、科学と社会の関係に関する最先端の研究を行っています。
総研大は、このような優れた研究拠点で院生の教 育を行い、次世代の研究者を養成するという、世界 にも類をみないコンセプトのもと、1988(昭和63)年 10月に設立されました。2018(平成30)年11月には 30周年を祝うことができました。
総研大の教育現場は、すなわち、日本の最先端研 究の現場です。通常の学部に繋がった大学院での生 活とは大変異なり、とくに5年一貫制の入学者の場合、学部卒ですぐにも専門の研究者に取り巻かれながら、自らの勉学と研究に励むことになります。学生数の2 倍以上にのぼる教員数。ほかでは得られない装置や 資料、一流の研究者集団。このような環境で博士論 文のための研究をすることは、素晴らしいチャンス でありますが、普通の大学とは異なる面、ストレス もあるかもしれません。
しかし、どの専攻も院生た ちを大事にし、そこで過ごす時間が実り多く楽しい ものとなるよう工夫しています。大学本部も精いっぱいそれを支えていきます。学生の皆さんは、この研究環境を最大限に活用し、博士論文研究に取り組んで下さい。
総研大は創立以来、「高い専門性」と「広い視野」、そして「国際的な通用性」を教育目標に掲げてきました。先に述べたような研究現場で学ぶのですから、「高 い専門性」と「国際的な通用性」は、自ずと身についていくでしょう。
しかし、「広い視野」はどうでしょう か?「広い視野」とは、自分の研究対象を、もっと広い、人類の知的な活動全体の中で位置づけて語ることが できる能力、現在の専門分野を越えて、新たな地平 を想像することのできる能力です。博士論文の執筆 中にこれらを獲得することは難しいかもしれませんが、 そんなことをつねに頭の隅に置きながら研究に励ん でいただければと思います。
さて、そのような意味での「広い視野」とは別に、たくさんの学問分野を横断的に見ることには、新たな可能性があります。既存の一つの分野の中だけで 思考を終わらせることなく、複数の分野の知見を組 み合わせていけば、これまでにない新しいアプローチによる、新しい発見があるかもしれません。私たちは、そんな挑戦をしたいと考える人たちを応援したいと思います。
そこで、2023年度から、現在の研究科、専攻の壁を取り払い、先端学術院先端学術専 攻のもとに20のコースを置くように改組することを 考えています。エネルギー、物質、宇宙、生命、情報、 歴史、文化と、幅広い知識領域をカバーする専攻を そろえた本学の特色を活かして、それらの間をつなぎ、新しい学問を拓く可能性に、みなさんを導くことができれば幸いです。
現在、大学や基礎研究を取り巻く日本の状況は、決して希望に満ちているとは言えません。それでも、先の見えにくい時代にあって、どのような状況でど んなに難しい事態に直面しても、一流の研究者とし てそれに立ち向かい、世界 で活躍できる人材を輩出していけるよう、関係各位のご協力のもと、日々努力していく所存です。
2022年 4月 1日
総合研究大学院大学長