2020.07.29

日韓 VLBI ネットワーク KaVA による星形成大規模観測プログラム初成果:高速ガス流を噴き出す巨大な赤ちゃん星たちの姿に迫る

プレスリリース

天文科学コース

Multiple Outflows in the High-mass Cluster-forming Region G25.82–0.17

掲載誌:

DOI: 10.3847/1538-4357/ab9100

https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ab9100

まとめ

国立天文台水沢 VLBI 観測所では、日本国内 VLBI ネットワーク VERA と韓国天文 研究院 KASI(Korea Astronomy and Space Science Institute)で運用されている韓国 VLBI ネットワーク KVN (Korean VLBI Network)との共同研究ネットワーク KaVA (KVN and VERA Array)による大規模観測プログラムを進めています。そのうちの1つ、星形成研究のプログラムでは、国立天文台、KASI も参加する国際共同プロジェクトのアルマ望遠鏡 ALMA(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)のデータとも組み合 わせ、大質量星団形成領域 G25.82-0.17 における複雑なアウトフローの構造につい て初めて解明しました。観測結果は、大質量星団でも太陽のような小質量星と似たよう なプロセスで大質量星が形成されることを示しています。本研究は、今後の東アジア VLBI ネットワークでの大規模観測プログラムによる大質量星形成研究の第一歩として 重要な成果となっています。 本研究は、 総合研究大学院大学 物理科学研究科 天文科学専攻 博士課程 キムジョンハ氏 (論文筆頭著者)が主導しました。

背景

太陽質量の 8 倍を超える重たい星「大質量星」は、強い放射や超新星爆発による重元素の放出などにより、星や惑星の誕生、銀河の進化において重要な役割を果たします。しかし、大質量星は太陽のような軽い星「小質量星」に比べて数が少なく、さらに太陽系からはるか彼方にある星団の中で生まれるため、高い解像度や感度の観測を行わなければならない、という困難があります。そのため、大質量の原始星(生まれたばかりの「赤ちゃん星」)の誕生メカニズムについては、未解明の問題が数多く残されています。

KaVA について

国立天文台水沢 VLBI 観測所は韓国天文研究院(Korea Astronomy and Space Science Institute, KASI)と超長基線電波干渉計(Very Long Baseline Interferometer, VLBI)ネットワーク KaVA を用いた共同研究を 2005 年から進めてきました。KaVA は、 国立天文台による日本国内 4 箇所の 20 m 電波望遠鏡による VLBI プロジェクト VERA (VLBI Exploration of Radio Astrometry)と、韓国天文研究院による韓国にある 3 台の 21 m 電波望遠鏡を組み合わせた KVN (Korean VLBI Network) を組み合わ せた KVN and VERA Array というネットワークです。長基線・高解像度の VERA と、短基線・高感度の KVN を組み合わせ、両者の特徴を生かした高画質の VLBI 観測を可能にしました。

KaVAによる主な研究成果

KaVA に始まった東アジア地域での VLBI 観測網は、2018 年、中国を加えた EAVN (East Asia VLBI Network)へと発展を遂げました( 図 1 )。現在の VERA は、VERA の みによる観測に加え、KaVA での観測、さらに EAVN での観測も行われています。また今後、タイなど他のアジア地域の国々も参加を予定しています。

KaVAfig1.jpg
図1:東アジア地域のVLBIネットワーク配置図。

KaVAは日本のVERAと韓国のKVNの共同研究です。日本国内のVERAには岩手県奥州市(水沢)、鹿児島県薩摩川内市(入来)、東京都小笠原村、沖縄県石垣市に直径20 mの電波望遠鏡が、韓国国内のKVNではソウル市、ウルサン市、ソギポ市(済州島)に直径21 mの電波望遠鏡が配置され、直径2300 km (水沢-石垣間の距離)の電波望遠鏡と同じ解像度を達成します。KaVAは現在、日本、韓国、中国、タイなどと共同で、より強力な東アジアVLBIネットワークEAVNへと発展を続けています。c The EAVN Collaboration

KaVA 星形成大規模観測プログラム

本研究は、2015年から開始されたKaVA大規模観測プログラムの1つ、「KaVAを用いた水メーザー・メタノールメーザー観測による大質量星形成機構の解明」の最初の成果となります( https://radio.kasi.re.kr/kava/large_programs.php )。「メーザー」とは「レーザー」光線のように宇宙空間で強く増幅された電波放射です。放射が強く、かつ、放射される領域がコンパクトなため、生まれたばかりの星のごく近くを電波干渉計で観測するのに理想的なツールとなっています。本プログラムは、一般の共同利用では困難な年間200時間の観測を3年間行うこと、国立天文台や韓国天文研究院も参加する国際共同プロジェクトのアルマ望遠鏡ALMA(AtacamaLargeMillimeter/SubmillimeterArray)など他の望遠鏡での多波長データを取得することにより、「大質量星にはどのようにして周辺から大量のガスが集まってくるのか」「大質量星が生まれる際に噴出される高速のガス流(アウトフロー)や、その中心に存在すると予言される回転ガス円盤がどのようにして形成されるのか」という謎の解明を目指した系統的な研究を進めています。

本研究の観測天体

本研究では、KaVA大規模観測プログラムのターゲット25天体のうちの1つG25.82-0.17を取り上げました。G25.82-0.17は太陽系から約16,000光年離れたところにあり、いて座とわし座の間に位置するたて座方向の天の川の中にあります。KaVA大規模観測プログラムの中でも、G25.82-0.17はメーザーが強く、かつ様々な速度で運動するガスから放射されていること、アルマ望遠鏡による高感度な観測データがあることから、大質量原始星の周辺環境を詳細に調べる最初のターゲットとしては格好の天体でした。

本研究の結果

アルマ望遠鏡による観測により、G25.82-0.17では生まれたばかりの大質量原始星G25.82-W1(アルマ望遠鏡によって検出されたG25.82(-0.17)西側(West)のミリ波天体1番)に加えて、星が生まれる前の高密度ガスや進化が進んだ電離ガスも存在し、形成途中の大質量星団であることが明らかになりました( 図2 )。G25.82-W1では、高温ガスからの電波放射で回転運動が捉えられ、回転による遠心力と重力の釣り合い(ケプラーの法則)から質量が太陽の25倍以上ということもわかりました。G25.82-W1は、確かに大質量原始星であると考えられます。

さらに、G25.82-W1からは毎秒50kmもの速度で南北(中心から上下)に吹き出すアウトフローも見つかりました( 図2 )。アウトフローと回転するガス(おそらく星周回転ガス円盤と関係)という構造は小質量原始星でもよくみられることが知られています。「今回の観測により、大質量星団形成領域G25.82-0.17の複雑な構造が解き明かされ、そこで生まれつつある大質量星が太陽のような小質量星と似たようなメカニズムで生まれていることが示されました。」とKaVA星形成大規模観測プログラムの韓国側共同代表である韓国天文研究院のキムギテ氏は今回の結果の意義について述べています。

大質量原始星G25.82-W1のごく近くには、KaVAで観測された水メーザーの放射が集中していました( 図3 )。南北方向のアウトフローが差し渡し50,000天文単位にも及ぶのに対して、水メーザーの分布は大質量原始星G25.82-W1から1000天文単位にしかなりません(それでも太陽・冥王星間の距離の20倍以上あります)。水メーザーは、大質量原始星付近から噴き出すアウトフローの根本に存在すると考えられています。「現在、KaVAで観測された新しいデータの解析を進め、この天体の3次元的な運動を捉えようとしています。これができれば、アウトフローがどのような機構で吹き出されているのかという星形成の大問題を解明できると期待されます。」と本研究を主導した総合研究大学院大学博士課程のキムジョンハ氏はこれらの成果について語っています。

KaVAfig2.png
図2:今回観測されたG25.82-0.17のイメージ。

青はALMAによる波長1.3mmの一酸化ケイ素(SiO)からの電波放射で手前に向かって吹き出してくるガスを、赤は同じく一酸化ケイ素(SiO)からの電波で奥に遠ざかる方向に吹き出してくるガスを示しています。南北(上下)に加えて、北西と南東(右上と左下)方向にも淡く伸びるアウトフローが見えています。こちらについては現時点ではその起源は未解明で、今後の研究課題となっています。中心の緑色はALMAで観測された星間塵からの放射で、中心のオレンジに輝く場所が大質量原始星G25.82-W1です。この熱放射もよく見てみると、弱い放射のピークがいくつかあり、星団が形成されつつあることがわかります。c 国立天文台

本研究の意義と今後

本研究では、KaVA、およびアルマ望遠鏡を用いた G25.82-0.17 の観測により、大質量原始星周辺の複雑な環境を初めて明らかにしました。KaVA 星形成大規模観測プ ログラムの日本側共同代表である国立天文台水沢 VLBI 観測所・総合研究大学院大 学の廣田朋也氏は、「今回の結果は、KaVA大規模観測プログラムが大質量星形成の 詳細な研究に威力を発揮することを示した重要なステップです。今後は、中国やタイなどの新たな電波望遠鏡も含む東アジア VLBI ネットワークによる共同研究により、さらに高い感度や解像度への観測を発展させていきたいと考えています。」と述べていま す。

KaVAfig3jp.png
図3: G25.82-W1の想像図。

左図は、赤と青のイメージはALMAで観測された一酸化ケイ素(SiO)からの電波放射(図2参照)で、南北方向と北西-南東方向のアウトフローを表しています。中心に生まれたばかりの大質量原始星G25.82-W1があり、そのごく近くにKaVAで観測された水メーザーのグループが存在しています。右図はG25.82-W1中心付近の拡大図で、大質量原始星付近から強い水メーザーが放射されている様子を表しています。c 国立天文台

本研究は、"Multiple Outflows in the High-mass Cluster-forming Region G25.82-0.17"というタイトルで、The Astrophysical Journal, vol896, id127として、2020年6月20日号に出版されました( https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ab9100 )。本研究は国立天文台、 総合研究大学院大学 、大妻女子大学、山口大学、Korea Astronomy and Space Science Institute, University of Science and Technology(韓国)、National Astronomical Research Institute of Thailand(タイ)、Shanghai Astronomical Observatory, Nanjing University(中国)、North West University(南アフリカ),University of Nigeria(ナイジェリア)による国際共同研究です。また、本研究は科学研究費(No.17K05398)の助成を受けて行われました。

関連するウェブサイト

KaVA KVN and VERA Array
https://radio.kasi.re.kr/kava/main_kava.php

VERA VLBI Exploration of Radio Astrometry
https://www.miz.nao.ac.jp/veraserver/index-J.html

KVN Korean VLBI Network
https://radio.kasi.re.kr/kvn/main_kvn.php

EAVN East Asia VLBI Network
https://radio.kasi.re.kr/eavn/main_eavn.php

アルマ望遠鏡
https://alma-telescope.jp/

著者

Jungha Kim1,2, Mi Kyoung Kim3,4, Tomoya Hirota1,2, Kee-Tae Kim5,6, Koichiro Sugiyama2,7, Mareki Honma1,3, Do-young Byun5,6, Chungsik Oh5, Kazuhito Motogi8, Jihyun Kang5, Jeongsook Kim5, Tie Liu9, Bo Hu10, Ross A. Burns2,5, James O. Chibueze11,12, Naoko Matsumoto2,13, and Kazuyoshi Sunada3

1 Department of Astronomical Science, SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies), 2-21-1 Osawa, Mitaka, Tokyo 181-8588, Japan
2 National Astronomical Observatory of Japan, 2-21-1 Osawa, Mitaka, Tokyo 181-8588, Japan
3 Mizusawa VLBI Observatory, National Astronomical Observatory of Japan, 2-21 Hoshi-ga-oka, Mizusawa-ku, Oshu, Iwate 023-0861, Japan
4 Department of Child Studies, Faculty of Home Economics, Otsuma Women's University, 12 Sanban-cho, Chiyoda-ku, Tokyo 102-8357, Japan
5 Korea Astronomy and Space Science Institute, 776 Daedeokdaero, Yuseong, Daejeon 34055, Republic of Korea
6 University of Science and Technology, 217 Gajeong-ro, Yuseong-gu, Daejeon 34113, Republic of Korea
7 National Astronomical Research Institute of Thailand (Public Organization), 260 Moo 4, T. Donkaew, A. Maerim, Chiang Mai 50180, Thailand
8 Graduate School of Sciences and Technology for Innovation, Yamaguchi University, Yoshida 1677-1, Yamaguchi 753-8512, Japan
9 Key Laboratory for Research in Galaxies and Cosmology, Shanghai Astronomical Observatory,
Chinese Academy of Sciences, 80 Nandan Road, Shanghai 200030, People's Republic of China
10 School of Astronomy and Space Science, Nanjing University, 22 Hankou Road, Nanjing 210093, People's Republic of China
11 Space Research Unit, Physics Department, North West University, Potchefstroom 2520, South Africa
12 Department of Physics and Astronomy, Faculty of Physical Sciences, University of Nigeria, Carver Building, 1 University Road, Nsukka, Nigeria
13 The Research Institute for Time Studies, Yamaguchi University, Yoshida 167701, Yamaguchi, Yamaguchi 753-8511, Japan

本研究に関わった総研大教員・学生

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