2022.05.24

頭を安定させて泳ぐために重要な役割を果たす神経細胞

研究論文助成事業 採択年度: 2021

川野幸平

基礎生物学

Long descending commissural V0v neurons ensure coordinated swimming movements along the body axis in larval zebrafish

掲載誌: 発行年: 2022

DOI: 10.1038/s41598-022-08283-0

MCoD神経細胞群が破壊されたゼブラフィッシュ仔魚の遊泳運動

ゼブラフィッシュ仔魚遊泳運動の連続写真。上段は正常仔魚、下段はMCoD神経細胞群が破壊された仔魚。MCoD破壊仔魚では、頭部の左右のぶれが激しくなっている。

ゼブラフィッシュ仔魚が頻繁に行う、ゆったりとした遊泳運動においては、頭は進行方向にほぼ固定されており、左右にほとんどぐらつかない。このように、遊泳運動時に頭を安定させることは視線の保持に重要であり、魚の生存戦略上で大きな意義をもつと考えられる。ゼブラフィッシュ仔魚の重心は、前後軸上においては、胴体部分のもっとも前付近に位置しており、頭をぐらつかせないためには、遊泳時に胴体部分の動きが重心に与えるを小さな状態に保つ必要がある。このためには、遊泳のフォームはC字状ではなく、S字状である必要がある。これにより、たとえば、胴体の前方部分が左方向へ力を受ける場合は、後方部分は右方向へ力を受けることとなり、胴体全体として、重心に与えるヨー方向回転モーメントを最小化することが可能となる。

本研究では、このようなS字フォームの遊泳運動の生成には、脊髄内に存在するMCoD神経細胞群が重要な役割を果たすことを示した。MCoD神経細胞は交叉性(脊髄の中心軸を横断するように反対側に軸索を伸ばす)を持ち、かつ長軸方向に長く軸索を伸ばす(図B)ことから、体の斜め方向(たとえば、右前と左後ろ)の活動を連動させる(図A)ことができる興奮性ニューロンである。具体的な実験として、MCoDニューロンが可視化された遺伝子改変個体を用いてそれらをレーザー破壊し、得られた幼魚の遊泳運動を高速度カメラで解析した。その結果、MCoD破壊幼魚では、遊泳運動のS字状屈曲パターンが乱れ、また、頭部が左右方向に顕著に揺れ動く表現型を示した。

本研究により、頭を安定させて泳ぐために重要な役割を果たす神経細胞群がゼブラフィッシュ仔魚脊髄内に存在することが明らかとなった。同様の神経細胞はすべての魚に存在し、頭を安定させた遊泳運動の生成に寄与しているものと考えられる。

書誌情報

  • タイトル: Long descending commissural V0v neurons ensure coordinated swimming movements along the body axis in larval zebrafish
  • 著者:Kohei Kawano, Kagayaki Kato, Takumi Sugioka, Yukiko Kimura, Masashi Tanimoto, Shin-ichi Higashijima
  • 掲載誌: Scientific Reports
  • 掲載年: 2022
  • DOI: 10.1038/s41598-022-08283-0

生命科学研究科 基礎生物学専攻 川野幸平

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