2022.08.01

細胞が成長する過程におけるDNAの「ゆらぎ」をとらえた!

研究論文助成事業 採択年度: 2022

飯田史織

遺伝学

Single nucleosome imaging reveals steady-state motion of interphase chromatin in living human cells

掲載誌: 発行年: 2022

DOI: 10.1126/sciadv.abn5626

DNAのゆらぎは核の成長やDNAの倍化にかかわらず一定である

細胞周期において、細胞分裂と細胞分裂の間(間期)は3つの段階に分かれる。DNA複製の準備をするG1期、DNAを複製するS期、細胞分裂の準備をするG2期である。その間、核の⼤きさは連続的に⼤きくなる。G1期からG2期にかけて、核の⼤きさは⼆倍以上に⼤きくなり(灰⾊線の楕円)、DNAの量も⼆倍になる(核内の⾚線)。このような核内の環境の変化にも関わらず、DNAのゆらぎは⼀定であった。DNAのゆらぎが⼀定であることによって、細胞は、DNAに書かれた遺伝情報を、常に同じ状況で読み出し、必要な仕事を同じように実⾏できる。DNAが損傷を受けると、細胞はDNAのゆらぎを上昇させることでDNAの損傷修復を促進する。DNAが修復されると、上昇していたDNAのゆらぎはもとに戻る。

私たちの体は約40兆個の細胞から成っています。この約40兆個の細胞は、細胞周期と呼ばれる細胞の成⻑と分裂の過程を数⼗回繰り返すことで、たった1個の細胞である受精卵から増えたものです。それぞれの細胞の核には⽣命の設計図であるゲノムDNAが収納されています。近年、細胞核内のゲノムDNAはダイナミックにゆらいでいる(細かく動いている)ことが明らかになりました(Hiharaetal.CellRep.(2012),Nozakietal.MolCell(2017),Nagashimaetal.JCellBiol(2019),Itohetal.LifeSciAlliance(2021))。⼀つの細胞が⼆つの娘細胞に分裂する前には、ゲノムDNAが収納された細胞核は⼆倍以上に成⻑し、DNAも複製されて倍化します。しかしながら、この細胞核の成⻑、DNAの倍化とゲノムDNAの「ゆらぎ」の関係はほとんど分かっていませんでした。私たちの体は約40兆個の細胞から成っています。この約40兆個の細胞は、細胞周期と呼ばれる細胞の成⻑と分裂の過程を数⼗回繰り返すことで、たった1個の細胞である受精卵から増えたものです。それぞれの細胞の核には⽣命の設計図であるゲノムDNAが収納されています。近年、細胞核内のゲノムDNAはダイナミックにゆらいでいる(細かく動いている)ことが明らかになりました(Hiharaetal.CellRep.(2012),Nozakietal.MolCell(2017),Nagashimaetal.JCellBiol(2019),Itohetal.LifeSciAlliance(2021))。⼀つの細胞が⼆つの娘細胞に分裂する前には、ゲノムDNAが収納された細胞核は⼆倍以上に成⻑し、DNAも複製されて倍化します。しかしながら、この細胞核の成⻑、DNAの倍化とゲノムDNAの「ゆらぎ」の関係はほとんど分かっていませんでした。

我々は、光学顕微鏡の分解能(~200nm)を超えた超解像蛍光顕微鏡を駆使して、ヒト細胞が成⻑する過程のDNAのゆらぎを⽣きた細胞内で観察することに成功しました。これまで、細胞が成⻑する際の細胞核の成⻑やDNAの倍化は、DNAのゆらぎなどのふるまいに⼤きく影響すると考えられてきました。しかし本研究によって、DNAのゆらぎは、細胞が成⻑する際の各過程に影響されることなく⼀定を保ち続けることが⽰されました。DNAのゆらぎは、ゲノム情報の読み出しやすさに直結します。DNAのゆらぎが⼀定であったことから、細胞はDNAに書かれた遺伝情報を常に同じ状況で読み出し、必要な仕事を同じように実⾏できると考えられます。⼀⽅、ゲノムDNAが損傷すると、DNAのゆらぎは⼀過的に上昇し、DNAの損傷修復がしやすくなることも明らかになりました。ゲノムDNAの修復の不全は細胞死や細胞のガン化につながり、関連したヒト遺伝疾患も知られています。本研究の成果によって、このような細胞の異常についての理解が進むことが期待されます。

書誌情報

  • タイトル:Single nucleosome imaging reveals steady-state motion of interphase chromatin in living human cells
  • 著者:S. Iida, S. Shinkai, Y. Itoh, S. Tamura, M. T. Kanemaki, S. Onami, K. Maeshima
  • 掲載誌:Science Advances
  • 掲載年:2022
  • URL: https://www.mdpi.com/1999-4915/14/6/1336
  • DOI:10.1126/sciadv.abn5626

生命科学研究科 遺伝学専攻 飯田史織

国立遺伝学研究所前島研究室・一貫制博士課程3年。遺伝子発現、DNA複製、DNA修復といったDNAが関わるイベントを、DNAの状態や物理的性質といった視点から理解したい。趣味:絵を見ること、絵を描くこと、体を動かすこと。

Twitter: @shiori_iida

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