2023.02.06

ササコナフキツノアブラムシと2種類の共生細菌が織りなす複合共生系を発見

研究論文助成事業 採択年度: 2022

 賴本隼汰

基礎生物学

Complex host/symbiont integration of a multi-partner symbiotic system in the eusocial aphid Ceratovacuna japonica

掲載誌: 発行年: 2022

DOI: https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.105478

https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.105478

ササコナフキツノアブラムシと2種の細胞内共生細菌ブフネラ、アルセノフォナス

(左)アズマネザサの葉裏で生活するササコナフキツノアブラムシの集団。(右)ササコナフキツノアブラムシの成虫の共生器官。蛍光染色し、DNAを灰色、ブフネラを緑色、アルセノフォナスをマゼンタ色で示しています。共生器官の外側に位置する細胞にはブフネラ、内側に位置する合胞体細胞にはアルセノフォナスが局在しています。母親から子へ共生細菌が受け継がれる際にはブフネラもアルセノフォナスも混じって感染します。しかし、胚発生過程における共生器官の形成に伴い、ブフネラとアルセノフォナスは共生器官の異なる細胞内に分かれていきます。この分かれていく仕組みは全くわかっておらず、今後解き明かしたい謎の一つです。

共生とは、異種の生物が共に生活する現象を指します。中でも細胞内共生は、宿主の細胞内に共生者が取り込まれており、両者が密接に相互作用しています。昆虫アブラムシの共生器官の細胞内には共生細菌ブフネラが存在し、両者はお互い相手なしでは生きていけないほど絶対的な相互依存関係にあり(絶対共生)、エンドウヒゲナガアブラムシ等を使った研究でその仕組みが明らかにされています。また、アブラムシの種や株によってはブフネラに加えて別の共生細菌が共感染していることがあり、それらが環境適応に有利な機能を宿主にもたらす例も知られています(任意共生)。複数の共生者から成る複合共生系の進化についてはあまり研究が進んでいませんでした。

本研究では、ササコナフキツノアブラムシが2種の共生細菌ブフネラとアルセノフォナスと密接な共生関係にあり、複合共生系を築いていることを発見しました。日本に分布する複数のササコナフキツノアブラムシ集団で共生細菌を探索したところ、すべての集団でブフネラに加えてアルセノフォナスという細菌が検出されました。両方の共生細菌は同じ共生器官の異なる細胞内に棲み分けがされており、母親から子へ受け継がれていることがわかりました。また、両方の共生細菌のゲノム配列を調べたところ、ブフネラは栄養合成に必須な遺伝子の一部を失っており、一方、アルセノフォナスはそれらの遺伝子を保有していました。この遺伝子レパートリーの相補性から、ササコナフキツノアブラムシではブフネラが失った一部の栄養合成機能をアルセノフォナスが補完していると考えられます。

ブフネラとアルセノフォナスによる絶対共生の例は世界で初めてであり、本研究は複合共生系の進化の共通原理を理解するのに貢献すると期待されます。複合共生系はアブラムシのみならず、キジラミやコナジラミ、ヨコバイ、セミなど、様々な半翅目昆虫でも報告されています。しかし、宿主がどのように複数種の共生細菌とそれぞれ相互作用しているのか、また共生細菌種同士がどのように相互作用をしているのか、それらの分子メカニズムはわかっていません。今後は室内飼育が可能なササコナフキツノアブラムシの強みを活かして、複合共生系の分子メカニズムの理解に取り組みます。

書誌情報

  • タイトル:Complex host/symbiont integration of a multi-partner symbiotic system in the eusocial aphid Ceratovacuna japonica
  • 著者:Shunta Yorimoto, Mitsuru Hattori, Maki Kondo, Shuji Shigenobu
  • 掲載誌: iScience
  • 掲載年:2022
  • DOI:https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.105478

生命科学研究科 基礎生物学専攻 賴本隼汰

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