2025.02.19

政治科学を加速する統計計算アルゴリズムの開発

SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2024

司馬博文

統計科学

3次元 Zig-Zag サンプラー

物理学の研究から生まれた計算アルゴリズム(Zig-Zag サンプラー)が確率分布をシミュレーションしている様子.筆者の研究はこのアルゴリズムを政治科学モデルに応用したもの.

 科学は1つです.その信念の下,私は物理学で利用されるシミュレーション技術を,統計学に応用する研究をしています.今回のプロジェクトで特に目をつけたのは政治科学でした.政治「科学」の名前の通り,近年は政治の現場を統計学的な手法で厳密に解明するという,実証的な研究が進んでいます.物理学と政治科学,果てには自然科学と社会科学も,手法は同じで,互いに学ぶところがある.これからはそういう時代だという気づきをもたらせる研究にしたいと思いました.

 その結果,(Kapfer, S., & Krauth, W. 2015) にて氷の溶解のミクロな様子の全原子シミュレーションを初めて成功させたアルゴリズムが,未曾有の複雑性を持ったより現実的な政治科学モデルを推論するために用いることができることを実証できました.このことにより,人間社会という極めて複雑なシステムを反映した大規模なモデルでも効率的に推論できるようになるため,より現実に即した実証分析が可能になります.

 今後はモデルの推論結果を政治学の知見に還元するために,政治科学者とのコラボレーションを進めています.ファインマンも昔は「社会科学は科学ではない」と批判していましたが,これは統計学が日進月歩する現代ではもはや間違っていると証明できるような,より現実的でより複雑なモデルを推論できる計算アルゴリズムの開発に,今後も集中していきたいと考えています.

派遣先滞在期間

Date of Departure: 2024/11/4
Date of Return: 2024/12/3

国、都市等

イギリス・ロンドン

機関名、受入先、会議名等

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン

‍派遣中に学んだことや得られたもの

1ヶ月という長い期間イギリスに滞在でき,自分の専門分野の第一線で活躍する先生方や博士学生とじっくりディスカッション・交流できたことの意義は,計り知れないほど大きいと感じます.中でも自分が懸命に読んだ論文の著者と実際にディスカッションする機会がたくさんあり,そのことが自分の研究者としての核を大きく育てました.論文に表現されていることで必ずしも全てではなく,アイデアとは論文ではなく人に宿るものなのかもしれないと感じました.

統計科学コース 司馬博文

私はベイズ計算を専門に研究しています.ベイズ推論は統計学・逆問題・システム制御・機械学習・認知科学などの分野において,確率論を応用するための指導原理を与える考え方です.そこで私はベイズ推論において目的に依存せずに使える汎用アルゴリズムを開発することで,確率論の応用を広げることを目指しています.

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