2025.02.19

超伝導遷移端型センサー (TES)性能評価

SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2024

池本拓朗

素粒子原子核

派遣先であるINAF/ROMAで実施した研究活動の概要

X線天文観測衛星Athenaへ搭載されるCryoACの概要とその為の検出器の性能評価

 私はインフレーション理論の検証を目標とするCMB観測衛星LiteBIRD計画に従事しています。特に、目標達成を阻む障壁となる宇宙線への対策研究を行っています。宇宙線は多くの観測衛星にとって深刻な課題であり、LiteBIRDと同様の検出器を用いるX線天文観測衛星ATHENAにおいても、対策技術が開発されています。その研究はLiteBIRDにも有用であり、共同することで両衛星実験に相乗効果が生じると考えました。そこで、イタリアのIAPS/INAFで行われている実験に参加しました。

 ATHENAにはTES(超伝導遷移端検出器)が搭載される予定です。TESは微小な温度変化を、超伝導物質を介し臨界温度近傍における急激な抵抗変化に変換する事で、精密な測定を実現する検出器です。この特性を活かし、TESは非常に高感度なX線観測を実現します。

 しかし、TESアレイ単体では観測対象のX線光子と背景粒子(銀河宇宙線などのX線以外の粒子)とを区別できずデータが汚染されます。この課題を解決するために、極低温アンチコインシデンス検出器(CryoAC)が考案されました。CryoACとは、X線観測用のTESアレイの直下1mm未満の位置に配置されたTES検出器です。X線は一層目のTESアレイで停止する一方、背景粒子は一層目を通過して二層目のCryoACに到達します。CryoACは、両層におけるコインシデンス(同時発生)信号を検出することで背景粒子を顕わにします。この機構によりX-IFUは背景粒子からの影響を区別し除去できるようになります。

 私はCryoACデモンストレーションモデルの性能評価に参加しました。TES検出器と信号読取装置SQUIDの個別評価、統合実験として宇宙線を用いた性能評価を実施しました。

派遣先滞在期間

Date of Departure: 2024/9/24
Date of Return: 2024/11/8

国、都市等

イタリア共和国

機関名、受入先、会議名等

IAPS/INAF

‍派遣中に学んだことや得られたもの

INAFは、冷凍技術およびそれを用いたTES研究において、世界をリードする研究機関のひとつです。特に、TESの作製から運用までを一貫して行っており、その全過程を見学する機会を得ました。特に運用に関しては、実際に自ら装置を組み立て、実験を行うことができ、研究において実用的な知識を学ぶ貴重な経験となりました。 また、私を迎え入れてくださった研究グループの方々は非常に親切で、手厚いサポートをしてくださいました。そのご厚意に深く感謝しています。

高エネルギー加速器科学研究科 素粒子原子核専攻 池本拓朗

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