2025.04.18
衛星搭載レーダーを用いた月の地下空洞検出手法の開発
SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2024
野澤 仁史

LRSデータには地下反射エコーだけでなく、月表面からの散乱エコーも含まれています。月表面からの散乱エコーを用いたシミュレーションにより評価し、観測データから差し引くことで、地下反射エコーのみを識別することができます。
近年、NASAのアルテミス計画をはじめ、月探査は再び大きな注目を集めています。こうした中、月で発見されている「縦孔」とそれに続く地下空洞は、有人探査の候補地としても、月の火成活動を調査する手がかりとしても重要です。これまで縦孔は月周回機に搭載されたカメラによって発見されてきましたが、地下空洞の分布はほとんど解明されていません。本研究では、日本の月周回衛星SELENE(かぐや)に搭載された「月レーダサウンダー(LRS)」のデータを用いて、地下数kmまでの空洞の検出を試みました。
LRSデータには地下からの反射波だけでなく、月表面からの散乱波も含まれており、これらを識別することは困難でした。本研究では、機械学習を用いて月の標高データを高精度化し、そのデータをもとに表面散乱波をシミュレーションしました。その結果をLRSデータから差し引くことで、地下からの反射波のみを抽出することが可能となりました。この手法を月の全球に適用することで、地下空洞分布の把握につながります。
月の地下空洞は放射線・温度環境の優位性から、将来の有人探査候補地の1つです。本研究で提案する地下空洞の検出手法は、将来の探査地点の選定に活かすことができます。また、月の地下空洞の形成要因は、溶岩が流れた際に生じる溶岩チューブやマグマ内部に含まれる揮発性物質が蓄積したガス空洞などが考えられています。本手法で得られる地下空洞分布と他のリモートセンシングデータを組み合わせることで、地下空洞の形成過程や月の火成活動のさらなる理解に貢献することが期待されます。
派遣先滞在期間
Date of Departure: 2024/9/25
Date of Return: 2025/3/5
国、都市等
イタリア共和国 ボローニャ
機関名、受入先、会議名等
・イタリア国立天体物理学研究所
・ボローニャ大学
派遣中に学んだことや得られたもの

今回の渡航を通じて、惑星レーダー分野に携わる研究者との貴重な人脈を築くことができました。特にイタリアは、同分野における世界的なトップランナーの一つであり、そのような先進的な研究環境の中で議論や論文執筆を行えたことは、今後のキャリアにとって大きな財産になります。また、特に研究進捗がない日でも、自ら話題を考えて積極的に共同研究者や同期の学生と会話することで、プライベートにおいても深いつながりを築けたと感じています。これらの人脈や経験を、今後のキャリアに活かしていきたいと思います。
物理科学研究科 宇宙科学専攻 野澤 仁史(のざわ ひとし)
・出身:千葉県柏市
・趣味:マラソン、スポーツ観戦(特に駅伝と野球)