2025.05.09

ポート・ハミルトン系が拓く核融合プラズマ制御の新たなる地平

SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2024

佐藤真紀

核融合科学

ポート・ハミルトン系が拓く核融合プラズマ制御の新たなる地平
核融合プラズマの制御に向けたポート・ハミルトン系の応用イメージ

核融合プラズマの動きはとても複雑で、従来の方程式のままでは制御に適した形で扱うのが困難です。そこで「ポート・ハミルトン系」という考え方を使って、動きの仕組みをシンプルな構造で捉え、制御しやすくします。

 人類のエネルギー問題は、今、ますます深刻さを増しています。その解決策のひとつとして注目されているのが、核融合発電です。これは、太陽と同じ原理である「核融合反応」によって得られるフュージョンエネルギーを用いた、次世代の発電技術です。実現すれば、クリーンでほぼ無限のエネルギー源となると期待されています。

 しかし、核融合発電の実現には、1億度にもなる「プラズマ」という超高温の媒質を、炉の運転時間スケールに亘って非常に精密に制御する必要があります。従来の制御理論では、プラズマのように複雑な物理現象を正確にモデル化することが難しく、制御は長らく実験的・経験的に行われてきました。

 そこで私は、「ポート・ハミルトン系」と呼ばれる、エネルギーの流れに注目した新しい制御理論を用いて、核融合プラズマの制御に向けた理論的な研究を行いました。特に、「この核融合プラズマというシステムそのものが、そもそも制御することが可能なのか(これをシステムの可制御性といいます)」という根本的な問いに対して、数値解析による検証を行いました。この解析の結果から、特定の条件下ではプラズマが理論的に制御できない可能性があることが示されました。これは、装置の性能や制御手法以前に、「その条件そのものが制御を不可能にしてしまう」ことを意味しています。このような”制御不能な領域”を明らかにすることは、翻って、今後の核融合炉設計において、安全かつ確実に制御可能な運転領域を選ぶための重要な手がかりになると考えられます。

派遣先滞在期間

Date of Departure: 2025/2/1
Date of Return: 2025/3/2

国、都市等

・スイス・ローザンヌ
・フランス・エクサンプロヴァンス、ヴァランス

機関名、受入先、会議名等

・スイス連邦工科大学 ローザンヌ校Control and Operation of Tokamaks 2025 ITER機構
・グルノーブルアルプ大学 LCIS (Laboratory of Systems and Communication Engineering)

‍派遣中に学んだことや得られたもの

 今回の派遣では、世界最先端の核融合プラズマ制御研究の現場で、基礎から応用まで幅広く学ぶことができました。MATLAB演習では自ら制御器を設計し、プラズマの数値制御実験を体験するなど、実践的で非常に充実した1ヶ月でした。ITER機構訪問では、制御エンジニアの方々に研究発表を行い、直接意見をいただけたことで、自分の研究の意義や今後の展望をより明確に認識することができました。

核融合科学コース 佐藤真紀

核融合科学コース佐藤真紀
筆者が所属している
核融合科学研究所前にて

 私は核融合発電の実現に向け、「ポート・ハミルトン系」と呼ばれるエネルギーの流れを重視した制御理論を用い、核融合プラズマの制御に関する理論的な研究を進めています。 電磁気学・流体力学・熱力学といった複雑で多くの物理現象が絡み合う核融合プラズマを安定して制御するための基盤づくりに取り組み、将来的には実機への応用にもつながる制御システムの構築を目指しています。

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