2025.05.09
高輝度LHC-ATLAS実験に向けた信号読み出し回路の開発
SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2024
須部実咲

開発した前段回路と信号同期のためのシステムをATLAS検出器にインストールし、最適な信号同期が実現していることを検証した。これらのシステムは高輝度LHC-ALTAS実験で用いられ、効率的なデータ収集に貢献する。
ATLAS実験は、欧州原子核研究機構 (CERN) にある周長27kmの加速器LHCを用いて行われている素粒子実験の1つです。加速器で陽子ビームを衝突させて高エネルギー状態を作り出し、生成された粒子を検出することで素粒子の精密測定や新粒子探索を行います。2030年からはLHCの陽子ビーム強度を増強した高輝度LHC実験が開始予定であり、それに伴ってATLAS検出器も刷新されます。
ATLAS検出器の最外層にはミューオンを検出するためのThin Gap Chamber (TGC) 検出器があり、私は高輝度LHC-ATLAS実験に向けたTGC検出器読み出し回路の開発を行っています。読み出し回路のうち前段回路では、検出器から受ける信号のタイミングを揃えて後段回路に送信する役割を担います。今回はATLAS検出器実機を用いて、量産された前段回路をインストールし、前段回路における信号同期を行うシステムの検証を行いました。
結果として、システムが正しく動作すること、信号同期に用いられる種々のパラメータが最適な値であることを実験本番の環境で確認することができました。これにより、高輝度LHC-ATLAS実験本番でも最適な信号同期が実現し、効率的なデータ収集に貢献します。また、今回の前段回路のインストール作業を通して、2026年から行われる前段回路1434台のインストール作業に向けた知見やフィードバックも得ることができました。
派遣先滞在期間
Date of Departure: 2024/11/15
Date of Return: 2024/12/17
国、都市等
スイス、ジュネーブ
機関名、受入先、会議名等
欧州原子核研究機構 (CERN)
派遣中に学んだことや得られたもの
CERNへの滞在やATLAS検出器がある地下での作業など、今回の滞在は初めてのことばかりで新鮮でした。ATLAS実験ではたくさんの研究グループが並行して作業を進めているため国をこえて他グループとの交流もあり、国際共同実験の醍醐味を味わうことができました。CERNの開放的で活発な雰囲気を感じながら研究を進めることができ、充実した滞在になりました。
素粒子原子核コース 須部実咲
ATLAS日本トリガーグループに所属し、高輝度LHC-ATLAS実験に向けたTGC検出器の読み出し回路開発を行っています。