2025.05.09
西南極に位置するロス棚氷下の海底堆積物掘削プロジェクト(SWAIS-2C)
SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2024
山﨑友莉

熱水を用いて厚さ600m程度のロス棚氷を貫通し,その200m下にある海底堆積物の掘削を目指す。
近年,温暖化の進行に呼応するかのように,南極氷床も急速に融解し始めています。そして,近い将来,急速な氷床融解による全球規模での海面上昇や気候変動が社会に甚大な影響を及ぼすことが懸念されています。そのため,2015年には気温上昇を2ºCに抑えるべくパリ協定が採択されました。しかし,温暖化と氷床融解,特に南極氷床の融解の仕組みに関しては未解明な点が多く,“2ºC”が氷床融解に及ぼす影響も不明です。SWAIS-2Cは,この問題に着目し,2ºC上昇時の南極氷床の状態を解明するため,南極で最大の棚氷であるロス棚氷において,熱水を用いてロス棚氷下の海底堆積物の掘削を目指しました。
棚氷下の堆積物は,南極氷床の変動をダイレクトに記録している可能性が高く,過去の類似環境の復元が期待されます。私は今回の南極派遣で,生物の変遷を辿ることができる“古代DNA”の試料採取の作業に従事しました。作業中は,厳重洗浄した器具を使用することはもちろん,人間のDNAによる汚染を防ぐため,防護服やマスク等を身につけて行いました。
SWAIS-2は3か年の計画であり,2年目の今シーズンでは前回より長い堆積物コアを採取できました。今後は,採取した堆積物に対し,物理学・化学・生物学とあらゆる分析方法を行い,古環境を復元する予定です。得られた成果は,南極研究の発展に貢献するだけでなく,環境政策に対する策定にも重要な情報を提供すると期待されます。
派遣先滞在期間
Date of Departure: 2024/11/20
Date of Return: 2025/1/10
国、都市等
ロス棚氷,南極
機関名、受入先、会議名等
GNS Science
派遣中に学んだことや得られたもの
渡航前より,南極での調査が困難であることは理解していましたが,実際に現場観測を経験し,大変さを実感しました。現場での堆積物掘削は当然のことながら,渡航自体も容易ではなく,変動するスケジュールへの対応にも苦労しました。また,プロジェクトリーダーの振る舞いや,掘削中止判断後の行動を見て,研究者には学術的な優秀さだけでなく,チームの雰囲気作りなど,常に他者をも考えられる素質も必要であることを学びました。また,日本人が1人であったため,英語を使う機会が多く,英語力も向上しました。
極域科学コース 山﨑友莉