2025.05.29

教科書を書き換える!クロマチンの「液体のり」として働くリンカーヒストンH1

SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2024

島添將誠

遺伝学

H1はどのようにクロマチンを凝縮させるか?
H1はどのようにクロマチンを凝縮させるか?

これまで、H1はヌクレオソームに安定に結合し、規則的な「かたい」構造を作ってクロマチンを凝縮させると考えられていた(図左)。今回の研究で、H1はダイナミックにヌクレオソームに結合し、「液体のり」のように働いてクロマチンを凝縮させ、不規則な「やわらかい」構造を作ることがわかった(図右)。

 ヒトの細胞1個には全長2 mにも及ぶDNAが収納されています。これは、ゴルフボールほどの大きさの球に8 kmのひもを押し込むようなものです。いったいどうやって、そんな長いDNAを小さな核に収納し、しかもギチギチな状態で生命活動を維持しているのでしょうか?

 この収納に関わる重要な分子が「リンカーヒストンH1」です。分子生物学の教科書では、H1がDNAを規則的に折りたたみ、30 nm繊維と呼ばれる「かたい」構造をつくることでDNAを圧縮するとされています(図左)。しかし近年、細胞の中にはこのような30nm繊維がほとんど存在しないことが明らかになってきました。(Maeshima et al. Curr. Opin. Cell. Biol. 2019)

 では、H1は本当はどのようにDNAを圧縮しているのでしょうか?本研究では、生きたヒト細胞の中で、1分子ずつのH1の動きを可視化し、そのふるまいを観察しました。その結果、H1は「液体のり」のようにクロマチン(DNAとタンパク質の複合体)をゆるやかにまとめ、不規則で「やわらかい」構造を作っていることが分かりました(図右)。

 この「やわらかい」構造は流動性をもち、他の分子が入り込みやすくなっています。つまり、DNAの読み出し(転写)や複製といった生命活動は、この「やわらかさ」に支えられているのです。

 本研究は、教科書のモデルを覆すものであり、DNAの関わる研究分野に大きなインパクトを与えることが期待されます。

Linker histone H1 functions as a liquid-like glue to organize chromatin in living human cells

Masa A. Shimazoe; Charles Phillips; Jan Huertas; Satoru Ide; Sachiko Tamura; Stephen Farr; S. S. Ashwin; Masaki Sasai; Rosana Collepardo-Guevara; Kazuhiro Maeshima

bioRxiv (2025) DOI: 10.1101/2025.03.05.641622 

派遣先滞在期間

Date of Departure: 2024/4/30
Date of Return: 2024/5/9

国、都市等

アメリカ合衆国、ニューヨーク

機関名、受入先、会議名等

Cold Spring Harbor Laboratory Meeting, Genome Organization & Nuclear Function

発表題目

Linker histone H1 serves as liquid-like “glue” of the chromatin domain.

‍派遣中に学んだことや得られたもの

 この研究内容はCold Spring Harbor Laboratory Meeting で発表しました。幸運なことに口頭発表に選ばれ、約200人の前で登壇しました。いままでの定説を覆す内容に反発があるかと思いきや、発表は大好評でした。
学会は朝9時から夜10時までぶっ続けで数日間行われ、世界をリードする研究者たちのアクティブさと熱意をひしひしと感じました。今後もこのような場で発表できるよう、日々着実に研究を進め、おもしろい発見を目指します。

生命科学研究科 遺伝学専攻 島添將誠(前島研究室)

島添將誠
発表後、議論をする筆者
(右、ジェスチャーでがんばっている)
分子になって細胞の核の中を見渡すのが夢
分子になって細胞の核の中を
見渡すのが夢

                                                      

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