2025.05.29

カメルーンの森に生きる人々の自然観をVRで可視化する試み

SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2024

重定菜子

総合地球環境学

研究の概念図
研究の概念図

「俯瞰」と「ローカル視点」の往還から生まれる、地球環境問題の「自分ごと化」プロセス

私の研究では、科学的知識の提供だけでは人々の行動が変わらないという課題をふまえ、地域に根ざす自然観や対話を通じて、環境課題を「自分ごと」として再構築することを目指しています。カメルーン南東部の熱帯雨林に暮らすバカ・ピグミーの人々は、豊かな自然と共に生き、近代的自然観とは異なる知の体系を今も保っています。こうした「周縁」とされる地域の知から、持続可能な暮らしのヒントを得て、地球環境問題をめぐる新たな対話の可能性を探るのが、博士課程研究『異文化対話デジタルミュージアムでの思考実験』の目的です。

今回のフィールドワークでは、Zoulabot研究ステーションを拠点に、バカ・ピグミーの人々との関係性を築くための対話を重ねつつ、ミュージアム制作に向けた予備調査として、3Dキャプチャや360度映像、音声記録を試験的に行い、彼らの自然観や世界観を記録しました。今後は喜界島、アタカマ砂漠とあわせた三地域の環境文化をVR空間に再構築し、ローカルな視点と地球俯瞰の視座を往還する対話実験を通じて、環境観の変容と行動変容の可能性を検証します。

派遣先滞在期間

Date of Departure: 2024/12/11
Date of Return: 2025/1/19

国、都市等

カメルーン、南東部

機関名、受入先、会議名等

総合地球環境学研究所「Fashloks プロジェクト」
Zoulabot Research Station (IRAD)

‍派遣中に学んだことや得られたもの

森のキャンプで現地の人々と生活を共にしたことで、自然と共生する彼らの価値観や伝統知を実感しました。何キロも続く森の獣道を歩いていた時、私は軍隊アリを避けるのに必死で下ばかり見ていましたが、彼らは私の何倍もの荷物を背負いながらサンダルで軽やかに歩き、美味しいものを見つけたり、動物の声に耳を澄ませたりと常に楽しげでした。その姿に人間としてのたくましさだけでなく、自然の中で培われた余裕を感じ深い敬意を覚えました。様々な体験から自然を信じて暮らすことの豊かさや、都市生活で失われている身体感覚について深く考えさせられました。フィールドステーションでの共同生活で多様な分野の研究者と日々語り合えたことも貴重な経験です。次回の滞在では、より実践的な共創のプロセスに踏み込み、現地の暮らしと研究をつなぐ方法を現場から探っていきます。

総合地球環境学コース 重定菜子

テレビ局でプロデューサーとして勤務した後、NYUで双方向メディアを学びました。現在は総合地球環境学コースの一期生として、メディアと人類学の視点から異文化間の相互理解を促し、人々の環境意識と行動変容を導く新たな社会デザインの可能性を模索しています。メディアで培った表現力と現場での観察眼を活かし、学術と実践を架橋する研究を目指しています。

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