2025.08.01
星形成を止めてしまった銀河が集まっている原始銀河団領域の観測
SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2024
柿元拓実

観測された原始銀河団のCOSMOS-Webb 画像 (Franco et al. 2025)。波⻑1.15 μm, 2.77μm および4.44 μm の画像を三⾊合成している。拡⼤図で⽰されている4 つの銀河が本研究で発⾒した星形成をしていない銀河である。
銀河はいつ、どのように⽣まれ進化してきたのでしょうか? 現在よく⽀持されている銀河進化モデルである「階層的構造形成モデル」では、銀河は⼩さい構造から衝突合体を繰り返し、継続的な星形成を⾏うことで巨⼤銀河に成⻑したと考えられています。しかしながら、近傍に存在する銀河のうち半分は星を作っておらず、特に質量の⼤きい銀河は 100 億年以上前に作られた星が⽀配的となっています。⼀体何が星形成を⽌めたのか、具体的な物理過程はまだ解明できていません。
銀河の星形成活動に起因する重要な性質として、銀河の周辺環境が挙げられます。近傍宇宙では上記のような楕円銀河は、典型的に銀河の密集する領域(すなわち、銀河団や銀河群)に存在するという観測結果があります。したがってこのような銀河密集領域の祖先(すなわち、原始銀河団)を遠⽅宇宙において探ることが、星形成を抑制するメカニズムを直接調査する上で重要です。
滞在中の研究で、実際に100 億年前の宇宙に存在する原始銀河団をJWST 観測によって発⾒しました。特徴的な点として、星形成を⽌めてしまった銀河が構成する銀河を⽀配する点が挙げられます。どのような物理が銀河の星形成の抑制を引き起こしたのかを探るため、いつ星形成を終えたのかを探る「星形成史」の理解、スペクトル線から解釈できる銀河中⼼核の活動性、銀河形態から探る相互作⽤による影響を理解したいと考えています。
派遣先滞在期間
Date of Departure: 2024/12/2
Date of Return: 2025/2/28
国、都市等
デンマーク、コペンハーゲン
機関名、受入先、会議名等
コペンハーゲン⼤学
発表題⽬
Environmental dependence of massive quiescent galaxies in the COSMOS field at 𝟏<𝒛<𝟓
派遣中に学んだことや得られたもの
滞在中は、銀河のサイズ測定、測光⽅法、スペクトル解析における輝線と吸収線の分離⽅法など、新たな解析⼿法を修得し、博⼠課程やその先の研究で役⽴つ技術を学ぶことができました。複数の研究者や学⽣の⽅と議論を⾏い、近年多くの研究成果を上げているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を⽤いた新たな研究⼿法について知⾒を得ることができました。
物理科学研究科 天文科学専攻 柿元拓実
出⾝:⻑野県塩尻市
宇宙の基本的な構成要素である銀河がどのように進化してきたのかという究極の問題に、観測的な観点から挑戦しています。