2025.11.25

J-PARC主リングの遅い取り出しの大強度化に伴うビーム不安定性の研究

SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2025

板橋啓太

加速器科学

 

 

遅い取り出し次の電流量とビームスピル構造。
遅い取り出し次の電流量とビームスピル構造。

遅い取り出しではビームは約2秒かけて取り出される。横軸は加速終了時からの時間を表す。赤線は加速器リング内のビームの電流量であり、これはリング内の陽子数に比例する。青線は、ハドロンビームラインに取り出されるビームの強度を表している。このビーム強度の時間構造はスピル構造と呼ばれる。

 私はJ-PARCの主リング(MR)という陽子シンクロトロン加速器について研究をしています。MRには「遅い取り出し」と呼ばれる運転があり、このときビームは加速されたのち、約2秒かけて取り出されます。取り出し先のハドロン実験の要請から、ビームの強度ができるだけ一定になるように取り出されることが求められています。そのため、加速時にリング上に7つの塊として存在していたビームを引き延ばし、リング一周にわたって均す過程が存在します。しかし、この過程でビームが不安定になることがあり、これは今後ビームの陽子数を増やすにつれてより顕著な問題となります。

 この問題を解決するためには、まず不安定性が起きたときのビームの様子を知る必要があります。今年5月に行ったビーム試験では、利用運転時よりも陽子数を増やし、不安定性が起こりやすい状況にし、ビームのデータを取得しました。このデータを解析したところ、不安定性が起きたときと起きていないときでは、ビームが伸び、均されている過程でのビームの進行方向の構造が異なることがわかりました。

 今後、ビームの陽子数をさらに増やすためには、この不安定性を抑制することが避けられません。今回のビーム試験で得られた知見は不安定性を抑制する手段を考える上で、重要なヒントになります。

派遣先滞在期間

Date of Departure: 2025/9/20
Date of Return: 2025/10/4

国、都市等

スペイン、サンタ・スサンナ Spain, Santa Susanna

機関名、受入先、会議名等

CERN Accelerator School (CAS), Frank Tecker

‍派遣中に学んだことや得られたもの

 この派遣では、2週間にわたり欧州原子核研究機構(CERN)が主催する加速器スクールに参加しました。ヨーロッパを中心に集まった大学院生や若手技術者とともに、加速器科学に関する多岐にわたる知識を体系的に学ぶことができました。私の研究に直結するビーム診断技術やビーム力学に関する講義もあり、これまでに培った知識を一層深め、発展させる貴重な機会となりました。また、海外の同世代研究者との交流を通じて、英語での発信力や国際的なコミュニケーション能力を高めることができました。

加速器科学コース 板橋啓太

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