2026.10.23
フィンランドの復興楽器ヨウヒッコの即興実践に関する民族音楽学的研究
SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2025
服部裕規
(右からRauno Nieminen、調査者、Petri Pentikäinen。写真:Paula Pasanen)
本研究で焦点を当てるヨウヒッコの即興演奏場面です。フィンランドのユメスニエミ村で毎年開催の行事「Folkkia ja villaa」でのコンサート時に撮影されました。ヨウヒッコは、中世の北ヨーロッパで演奏された弓奏リラの一種です。フィンランドのサヴォ地方とカレリアでは、主にダンス伴奏に用いられました。1940年代には伝統を知る奏者が一人にまで減りましたが、1970年代後半より、ラウノ・ニエミネン氏(写真右端)による復刻・製作・演奏活動をきっかけとして再び演奏され始めています。
本研究では、フィンランドの復興楽器ヨウヒッコを用いた即興演奏実践を事例に、伝統的な演奏文脈が失われた状況下で、必ずしも聴衆を前提とせず、宛先が曖昧に感じられるその音楽がどのように生成され、変化し、世界と関係を結んでいくのかの民族誌的記述を試みます。西洋芸術音楽の枠組みでは捉えにくい音作りに潜在する意味を見出そうとするのが本研究の趣旨です。調査者は、フィンランドに生活拠点を置き、自らヨウヒッコ演奏を学ぶことを基軸とする長期フィールドワークを実施しました。
調査では、ヨウヒッコの演奏家・製作家であるラウノ・ニエミネン氏に師事し、無意識に出てくる音の連鎖に重点を置く即興演奏を共に実践・探究しました。具体的には、氏とのデュオ「ヨウヒカンテレの時空探検隊」として演奏活動と音楽制作を行い、二枚のアルバムを制作・出版しました。こうした共同実践を経て、音が次の音を呼び、その応答がさらに演奏の条件を変えていくような、循環的な生成変化の過程が見えてきました。またこの過程には、楽器や録音環境、他者との関係など、音作りを取り巻く世界の書き換えが伴うことも分かりました。
本研究は、ヨウヒッコの即興実践の民族誌を記述することで、その系譜上にある古い楽器の音楽観を想像し直す試みです。延いては、音楽が形式化されてしまう以前の過程としての不確実な音と動きの動態を読み解く足がかりになりうると考えます。
派遣先滞在期間
Date of Departure: 2022/09/14 (本プログラム該当期間: 2025/12/1から)
Date of Return: 2026/01/12
国、都市等
フィンランド / イカーリネン
機関名、受入先、会議名等
Rauno Nieminen(ラウノ・ニエミネン)
派遣中に学んだことや得られたもの
本プログラムには、2022年9月から続いた長期調査の最終段階を支援していただきました。お力添えいただいたことにより、最後まで慌てることなく落ち着いて調査に集中することができました。二枚の音楽アルバムの制作・出版という実績にもつながりました。本調査によって得られたデータと経験を生かして博士論文の執筆に励みます。ありがとうございました。
文化科学研究科 比較文化学専攻 服部裕規