2026.07.16
ゲノムの平和はどう守られるのか? 数理モデルで解き明かす「利己的な遺伝子」と防御システムの共存ダイナミクス
SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2026
鍋加有佑
本研究の根幹となる連立微分方程式です。ゲノム内で増殖しようとするトランスポゾンの量(n)と、それを抑え込む二つの防御システム(p, x)の働きが、時間の経過とともにどう変化し、互いにどう影響し合うかを数理的に表現しています。
私たち生物の設計図であるゲノムの中には、トランスポゾンという自分自身のコピーを増やして動き回る「利己的な遺伝子」が存在します。これらが過剰に増殖するとゲノムは破壊されるため、私たちの体にはそれを抑え込む防御システムが備わっています。しかし、なぜ一つの標的に対して機能の似た複数の防御システムが維持されているのかは謎でした。私はこの謎を解明するため、両者の攻防を再現する数理モデルを構築しました。
本研究により、似た役割を持つ二つの防御システムが、ゲノム内で互いに排除せず共存できる条件を理論的に明らかにしました。解析の結果、防御システムがトランスポゾンの活動へ依存する度合いと、認識方法の違いが共存の鍵であることが分かりました。さらに今回の派遣では、トランスポゾンを抑えることで得られる利益の項を新たにモデルへ追加しました。これにより予測精度が大幅に改善し、共存の条件をより正確に示すことに成功しました。
本研究は、生命がどのようにゲノムの安定性を保ってきたのかという根源的な問いに迫るものです。今後の展望として、本モデルに突然変異によるトランスポゾンと防御システムの軍拡競争のプロセスを組み込み、ゲノムがいかにして安定性を保ちながら多様な進化を遂げてきたのか、その普遍的なメカニズムの解明を目指します。
なお、本研究成果はプレプリントとして公開されています。https://doi.org/10.1101/2025.11.27.690821
派遣先滞在期間
Date of Departure: 2026/04/12
Date of Return: 2026/05/15
国、都市等
フランス(パリ、マルセイユ)
機関名、受入先、会議名等
Paris-Saclay University, hosted by Dr. Arnaud Le Rouzic
Aix-Marseille University, hosted by Dr. Peter Czuppon
派遣中に学んだことや得られたもの
今回の派遣を通じ、トランスポゾン研究の第一線で活躍する研究者たちと直接議論を交わし、自身の数理モデルを洗練させる貴重な機会を得ました。また、専門の集団遺伝学にとどまらず、生態学の視点や確率過程の手法など、異なる分野の知見に触れることで研究に対する視野が大きく広がりました。海外の活発なコミュニティで自身の研究を発表し、分野を越えたネットワークを築けたことは、今後の研究者人生における大きな財産になったと感じています。
統合進化科学コース 鍋加有佑