私が在籍していた日本歴史研究専攻は、千葉県佐倉の国立歴史民俗博物館に設置されています。考古学・民俗学・古代史から現代史に至るまでの多種多彩な分野の研究者が集い、自由な研究が進められています。私は、奈良で修士課程を修了後、東京で38年間中学・高校の教師を勤め、退職後、博士課程に入学しました。総研大では、先生方や事務方の手厚いサポートがあり、とても助かりました。そのほかにも、総研大には、院生の研究調査費や学会出席の旅費を援助する制度があります。私は、幸い3年間で学位を取得することができました。そして、今、また新たな出発点に立っています。研究に定年はなく、課題は山とあります。意欲のある方は、総研大への入学をお勧めします。
私の所属する核融合科学専攻は、核融合科学研究所に設置されており、プラズマ物理から炉材料工学まで、核融合科学に関する幅広い分野を学ぶことができます。私の研究テーマは、普遍的な大学で行われる基礎研究とはやや異なり、核融合炉実現を強く意識した内容でした。不透明な部分が多いテーマである以上、研究には個人の意志と継続的な努力が必要でしたが、一度モノにできたら自信を持って他の研究者と対話できるようになります。研究の遂行には資金・設備が重要ですが、博士の大学院生としては驚くほどに恵まれた環境であったと振り返ることができます。読者の皆様が後輩になってくださることをご一考願えますと大変光栄に存じます。
私は素粒子原子核専攻において、ミリ波宇宙望遠鏡の観測精度を向上させ、インフレーション仮説を検証する研究を行いました。KEKに所属する総研大生は、基礎科学の最前線を担う実験装置のみならず、工作機械やスーパーコンピュータ、ポスター印刷機や研究ノートまで、充実した設備を使って研究することができます。研究発表や出張を経済的に援助する制度もあり、私はチリの観測所をはじめ海外の研究拠点に何度も赴き、共同研究者たちと議論や作業を共にしました。また、集中講義を通じて全国の基盤機関を訪れ、自分の専門分野外の研究について見聞を深める機会にも恵まれました。研究室の中だけで学びを完結させず、国際的な研究活動のネットワークに参加して広い視野を獲得できることが、総研大の最大の魅力だと感じています。
複合科学研究科で享受できる最大の恩恵は、その豊かな多様性だと思います。基礎、応用、実践研究を幅広く扱うだけでなく、産学官にまたがる連携、そして多様な文化的・学問的・職業的背景をもつ研究者同士の交流が日夜盛んに行われています。この多様性は、各々の研究に多角的な視点を与え、より洗練された結果をもたらしていると感じています。昨年度はコロナ禍という大変なイレギュラーがありましたが、研究室や事務の方々の工夫によって、 多くの学生が研究の前線で活躍する研究者と活きた研究の現場や空気感を共有できたように思います。皆さんも一緒に、総研大という豊かな生態系で密な研究の交流をしてみませんか。
私が所属する生理科学専攻は生理学研究所に設置されており、私たち学生は第一線の研究者に囲まれながら充実した実験装置を利用して研究を行うことができます。生理学研究所の設備に加えて、同じ敷地内にある基礎生物学研究所(以下、基生研)の装置による解析も気軽に依頼可能です。私の場合、基生研にサンプルを持ち込み、質量分析装置によるプロテオミクス解析を行ってきました。また、総研大の特色として学生の数に対して多くの研究者が在籍しており、学生は多くの指導やアドバイスを得ることができます。加えて、他研究室の教員とディスカッションする機会も設けられており、日々、研究を進めるうえで大変助けになります。研究がしたい学生にとって、とても恵まれた環境だと思います。
進化学を極めたいなら、本研究科はとても良い選択です。それはここが考古や数理も含めて進化学の多様な分野がまとまった他学では類をみない組織だからです。特に、本研究科では年2回研究科全体での進捗報告会や他研究室への体験入室(ローテーション)があり、分野を超えて互いの研究を知り、意見を交換し、共同研究を始める環境が整っています。実際に、私は理論研究が専門ですが、これらの活動を通して、分子進化の先生と理論と実証の協働研究を行う機会に恵まれました。また、ローテーションでは人類学分野を選び、発掘調査を通して、栽培化や家畜化による進化を考古学的に迫る面白さを体感できました。さらに、支援制度も充実しており、生活費以外のほぼ全てを賄える点も魅力です。本研究科には、ミクロな分子進化からマクロな進化生態まで階層横断的に、またフィールド・実験・理論の異なる視点から進化を学び、狭い分野にとらわれず豊かな発想で研究する環境があります。