2017.04.14

神奈川新聞掲載コラム 稲邑哲也

ロボットと知的協調

複合科学研究科
情報学専攻 准教授
稲邑 哲也(いなむら てつなり)

総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻准教授。東京大学大学院工学系研究科情報学専攻にて対話型知能ロボットの研究に従事し博士(工学)を取得。

近年、人工知能技術に注目が集まり、人間の能力を大きく超えたロボットが社会に進出し、人間の仕事を奪うのでないか、という危惧を感じている人々もいる。果たしてどうだろうか?が全く心配はない。

現状のロボットは自らの身体(ハードウェア)と脳(ソフトウェア)を、全て人間に設計してもらわねばならず、日々生じる故障箇所をこまめにメンテナンスしてもらう必要がある。それに携わる研究者の仕事量と努力は、尋常なものではない。

私は、ロボットが人間と対話をしながら学習していく、という研究を行っているのだが、それを進めるにあたり大きな問題がある。それは、ロボットのメンテナンス量である。学習のために、ロボットが充分な対話経験を積むためには、非現実的な長期間「お世話」をする必要がある。研究が完了する前に、メンテナンス要員がギブアップをしてしまう状況である。

そこで、私は、国立情報学研究所において、実際の人間が仮想環境の中にログインし、ロボットとフェイスツーフェイスの対話を可能とする、クラウド型のシミュレーションを開発している。一般のユーザが、このシステムに次々とログインし、ロボットと対話をすることが可能となる。ロボットは、ハードウェアメンテナンスの呪縛から逃れ、世界中の人々から、身振り手振りの身体運動を含んだ様々な知識を得ることができる。

このように、ロボットがいかに人間と協調しながら学んで行くか、ということが現在の私の研究テーマである。将来ロボットが社会に進出する際には、そのような知的な協調が鍵になるであろう。

ロボットと仮想環境の中で対話する研究者(P_20161129_112126.jpg)とロボットと対話するシミュレーション画像(SIGVerse_fig.png)

(協力=科学コミュニケーター・西岡 真由美)

このコラムは2016年6月~2017年5月まで24回にわたり神奈川新聞にした
連載「総研大発 最先端の現場」に一部加筆・修正(写真の差し替え)をしたものです。

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