2018.08.06

【プレスリリース】樹状突起が適切な方向に伸びる仕組み

NIG
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樹状突起が適切な方向に伸びる仕組み
― 世界初:新生児マウス脳で神経細胞を長期間くり返し観察することに成功 ―

【研究概要】

個々の神経細胞が適切な方向に樹状突起 (1) を伸ばすことは、脳が正常に機能するために重要です。しかしながら、新生児期の脳の中の神経細胞を長期間観察する技術がなかったため、神経細胞がどのように樹状突起を伸ばすかは、よくわかっていませんでした。
情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の中沢信吾 総研大大学院生、水野秀信 助教(現熊本大特任准教授)と岩里琢治 教授の研究グループは、マウスの大脳皮質の特定の神経細胞を、樹状突起形成に重要な生後3日目から6日目までの3日間くり返し観察することに世界で初めて成功しました。
その結果、樹状突起はいろいろな向きで生えては消えてということを繰り返しており、偏った方向から入力(刺激など)があるときには、入力の向きに生えたものの一部だけが生き残り「勝者」として大きく成長することがわかりました(図1)。
本研究で、世界で初めて哺乳類新生児の脳の中の神経細胞を長期間(3日間)にわたり観察することで、大脳皮質の神経回路 (2) が作られる仕組みの一端を明らかにしました。

図1:新生児の大脳皮質での樹状突起の発達

神経細胞の樹状突起はあらゆる方向に作られたり消えたりしているが、特定の方向(緑色の部分)からのみ入力を受ける場合、入力の方向に生えたものの一部だけが勝者となり生き残り大きく成長する。早い者勝ちではなく、後から生えた樹状突起にも勝者となるチャンスがある。その結果として、入力のある方向だけに樹状突起が広がるようになる。(形成されたばかりの樹状突起をオレンジ、勝者となり大きく成長していく樹状突起を赤、敗者となり消えた樹状突起を点線で表した。)
一方、どちらの方向からも入力を受けることができる場合、樹状突起の生存競争は緩和し、多くの樹状突起が生き延びマイルドに成長する。

【成果掲載誌】

本研究成果は、英国電子ジャーナル Nature Communicationsに平成30年8月6日(グリニッジ標準時)に掲載されます。

論文タイトル:Differential dynamics of cortical neuron dendritic trees revealed by long-term in vivo imaging in neonates (新生児期での長期生体イメージングにより明らかになった大脳皮質神経細胞の樹状突起の差異的ダイナミクス)

著者:Shingo Nakazawa, Hidenobu Mizuno, Takuji Iwasato, (中沢信吾、水野秀信、岩里琢治)

【研究の詳細】

研究の背景

ヒトやマウスでは出生直後の大脳皮質の神経回路は未熟で、その後、成長過程で入力(刺激)の影響を受けながら成熟します。しかしながら、大脳皮質をはじめとする脳の中の神経細胞を出生直後に長期間にわたって観察する技術がなかったため、その時期に神経細胞がどのように成熟し、機能的な神経回路を形成していくのかについて、ほとんど明らかにされていませんでした。
本研究グループは、これまでに、脳の中の個々の神経細胞を明るく蛍光標識する技術(スーパーノバ法)を開発し、生きているマウスの脳で神経細胞の形態を解析することを可能としました(2016年10月27日弊所プレスリリース)。また、生きている生後5日目のマウスの脳の中を数時間にわたって観察することに世界に先駆けて成功しました(2014年3月28日弊所プレスリリース)。これらの実験技術をもちいて、非常に脆弱な生後3日目から3日間という長期にわたって観察することを目指して取り組んできました。

本研究の成果

本研究グループは、大脳皮質の同じ神経細胞を、樹状突起の方向性が急激に形成される生後3日目から6日目まで繰り返し観察することに成功しました(図2、3)。

図2:観察の手順

二光子顕微鏡 (3) を用いて、生後3日目から6日目まで繰り返し同じ神経細胞を観察し、神経細胞の形態変化を解析した。仔マウスは観察の合間に母親マウスの世話をうけながら正常に成長した。

図3:生後3日目から6日目までの神経細胞の形態変化の例(実際の画像)

神経細胞が形態を激しく変化させながら、適切な入力のある方向(この写真ではほぼ右側)へと樹状突起を広げていく様子がわかる。下段は白枠部分を拡大したもの。神経細胞はスーパーノバ法によって明るく赤色に標識されている。ここでは1日おきの写真を示しているが、実際には生後3日齢から5日齢は8時間おきに観察した。

その結果、「遡及的解析 (4) 」が可能となり、将来特定のタイプになる神経細胞を、未熟な段階で区別し、成長過程を追跡することができるようになりました(図4)。

図4:長期観察による遡及的解析

生後3日齢の大脳皮質では神経細胞は未熟で同じような形態をしているため、特定のタイプのものを見分けることは困難である。一方、生後6日齢になればタイプによる違いを区別することができる。したがって、同じ神経細胞を長期にわたり観察すれば、時間を遡ることにより、生後3日齢の段階でも将来に特定のタイプになる神経細胞を同定することができる。

成長過程の追跡の結果、神経細胞が短い樹状突起を作ったり除去したりする、樹状突起の「生存競争」が見られ、適切な方向に生えたものの一部を「勝者」として大きく成長させることにより正確な神経回路を作っていく様子が観察されました。さらに、偏った方向から入力があるときに、樹状突起の生存競争は激しくなることがわかりました(図1)。一方、入力方向に偏りがないと、生存競争は緩和されて、最初にできた樹状突起の多くが消えることなく中程度に成長しました(図1)。

今後の期待

本研究で、新生児マウスの脳の中の神経細胞の長期にわたる観察に世界で初めて成功したことにより、この時期の神経細胞が、樹状突起を作ったり消したりしながら特定の回路に組み込まれていく様子を明らかにすることができました。この技術を用いることによって、新生児の成熟過程の脳の中で何が起きているのかの様々な謎に挑戦することが可能となります。
ヒトを含めた哺乳類の新生児の脳での正常な神経回路発達やその異常としての疾患を理解するための重要な一歩です。

【用語解説】

(1) 樹状突起

神経細胞から(通常)複数伸びている短い突起であり、神経細胞への入力を担う。

(2) 神経回路

脳は神経細胞がネットワーク(神経回路)を作ることにより機能する。

(3) 二光子顕微鏡

二光子効果を用いて脳深部を観察できる顕微鏡。成体脳の可視化で広く用いられているが、新生仔動物での使用例はほとんどない。

(4) 遡及的解析

「発達したあとの神経細胞の形態」や「他の細胞との位置関係」などの特徴の情報を頼りに遡って、発達前の神経細胞を分類する手法。長期観察の成功によって可能となった。

【研究体制と支援】

本研究は、国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門(岩里琢治 教授)にて、中沢信吾(総研大大学院生)が中心となり、水野秀信 助教(現熊本大学 国際先端医学研究機構 特任准教授)の協力のもと行われました。
この研究は新学術領域研究「スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御」(JP16H06459)および科研費(JP15J03643、JP16H06143、 JP16K14559、JP15H01454、JP15H04263)の支援を受けて行われました。

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