2018.10.09

平成30年度秋季入学式 学長式辞 【10月9日】

ワイルドで荒唐無稽で生意気な目標を心に秘めて

みなさま、本日は、総合研究大学院大学にご入学おめでとうございます。本学は学部を持たない大学院大学ですので、今日ご入学のみなさんはすべて、それぞれ異なる大学を卒業してここに集まってこられた方々です。同じところにずっと居続ける心地よさを敢えて退け、新天地で博士論文研究をしようと目指したみなさんの勇気と決断をたたえたいと思います。欧米では、所在地を変えることは、いわば当然のように行われているのですが、日本ではなぜか、学生を含めて研究者の流動性が、それほど高くありません。私は、それはよくないことだと、大学院大学の学長という立場を離れて、一研究者としても、そう考えておりますので、本学を選んだというみなさんの決意を、心よりたたえたいと思います。

流動性がないとなぜ良くないのか? それは、一つのところで培われた一つの文化をみんながずっと踏襲することで、いつか硬直化し、変革を嫌う雰囲気が生まれるからです。つねに新風を吹き込むこと。それは、つねに現状を批判的に考察し、社会を新しい方向に動かす原動力なのだと、私は思います。

総研大は、普通の大学に設置された大学院とはかなり異なります。それぞれの専攻は、一つの研究所であり、その分野で世界トップレベルの研究を行うのがミッションである場所です。そこに大学院生が送り込まれるのですから、みなさんは、最初から研究者の卵として扱われ、普通に研究者が置かれている状況に放り込まれることになります。

手取り足取り、なんでも丁寧に教えてもらえるという環境ではないかもしれません。学生生活という意味では、「食べる」という根本的な点で、食堂があるかという問題から始まって、娯楽や気晴らし、スポーツなどの機会があるかどうか、困ったときの相談窓口がどのように設置されているかに至るまで、普通の大学院とは状況が違うと思います。総研大は、研究所を主体とした大学院ですので、その分野の研究としては、最先端の設備と教授陣を提供できます。しかし、みなさんの生活のお世話という意味では、最良とは言えない部分も、多々あるかもしれません。

この先、みなさんの研究生活の中で、何か問題が起こったり、不満があったりした場合には、躊躇せずに大学本部に連絡してください。できる限り対処して、みなさんの勉学環境を改善したいと思っております。ただし、みなさんの研究の場が、各種の大学共同利用機関である研究所だという特殊性は、最初から理解しておいていただきたいと望みます。たとえ、学部を卒業したばかりの5年一貫制の1年生であろうと、最初からミニ研究者として扱われるということに喜びを見いだせるような、そういうみなさんであって欲しいと思います。

これから、みなさんはどんな研究テーマのもとで研究を始めていきますか? それは、とてもわくわくする状況でしょう? 私自身、博士論文研究を始めたときのことを思い出すと、いかに興奮に満ちていたことか。でも、研究という営みを取り巻く現在の社会状況では、テーマ設定も、必ずや結果が見込まれるものにせざるを得ないかもしれません。博士号取得後の研究者人生を考えると、確実に成果を出し続け、次のポストをねらわねばならない、厳しい状況にあるのだと思います。

でも、本来、研究とはそういうものではないのです。研究とは、純粋におもしろいと思うもの、これが知りたいと思うものを追求する行為であり、その結果としてどんなものが出てくるか、誰にも予想のつかないようなものです。かつて、世界的にも、日本でも、資金が潤沢にあった時代には、よくわけのわからない研究にも資金が投入されていましたし、目に見える研究成果と言われるものが出せなくても、研究者は研究を続けていくことができました。

悲しいことに、今はそんな時代ではありません。それでも、この現在の成果主義を本気にしてしまえば、研究は、成果の出せそうなもの、もうすでにかなりわかっているものだけをめざすことになります。そうなると、縮小再生産のスパイラルに入るでしょう。そんなことではいけません。私は、みなさんが博士論文研究を行い、それぞれの分野で、新しい知識をつけくわえ、次の次元をめざす中で、心のかたすみには、つねに、荒唐無稽なこと、まったく新しいものを開拓したいという欲求を育てていって欲しいと思います。毎日の研究成果という意味では、地道な積み上げができなくてはならない、その能力はなければならないけれど、それを超えて心の中では、つねに、なにかワイルドな考え、現状を突き破るような夢を持っていただきたいと望んでいます。

でも、私がそう言おうと言うまいと、若いというのは、そういうことなのではないかとも私は思います。年をとると、現状を十分に認識し、できることもできないこともわかるようになります。それは、その人の過去の経験に基づいての結果です。しかし、若い人は、まだそのような経験がないからこそ、今までからすれば、あり得そうもないことも考えられるし、今までは出来なかったような、絶対出来ないと年寄りが思っているようなことに対し、それに向かっていくこともできるのではないでしょうか?

未来はみなさんが作るものです。研究の新たな地平を開くのはみなさんです。みなさんはまだ卵だし、今は指導教員の指導のもとで研究をするのは当然なのですが、 10 年後、 20 年後はみなさんが研究の最先端にいて、次の研究を切り開いているのです。その野望を、ワイルドで荒唐無稽で生意気な心を、奥底に持ちつつ、これから博士論文研究を始めてください。これからの研究が実り多いものになりますことをお祈りいたします。

本日は、ご入学、まことにおめでとうございます。

2018 年 10 月 9 日

総合研究大学院大学 学長 長谷川眞理子

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