2020.03.31

令和2年度 総合研究大学院大学春季入学 学長メッセージ【令和2年4月7日】

総研大で博士論文研究をするとはどういうことか

みなさん、本日は総合研究大学院大学にご入学おめでとうございます。本来であれば、総研大の葉山の本部に来ていただき、そこで入学式を行うとともに、そのあと3泊4日のフレッシュマンコースにご参加いただくはずでした。しかしながら、本年1月からの新型コロナウィルス感染拡大が収束しないため、葉山での入学式は中止ということになりました。みなさんと直接お目にかかってお話しできないことになり、大変に残念です。

本学は、日本各地に散らばる大学共同利用機関である研究所を基盤にした大学院大学です。葉山の地には、先導科学研究科の生命共生体進化学専攻がありますが、そこの院生でない限り、みなさんが葉山の本部に来られることはほとんどないと思います。多くのみなさんにとって、それは入学式と学位記授与式のときだけなのではないでしょうか? そのうちの一つの機会である入学式が葉山で行われなくなったことを、本当に残念に思います。専攻を越えてみなさんが一堂に会して行うフレッシュマンコースは、近いうちになんとかして開催したいと思いますので、そのときを楽しみにしていてください。

さて、本学は学部を持たず、研究所が主体の大学院です。これからのみなさんの研究環境は、一般の大学に設置された大学院のそれとは、かなり異なる場所となるでしょう。専攻が置かれている研究所では、それぞれ世界でトップクラスの研究が行われています。一つの大学ではとても持てないような大型装置を持ち、世界各国からの研究者たちと大きなプロジェクトを動かしている研究所もあります。また、必ずしも大型プロジェクト研究が主体ではない研究所もあります。それでもみな、その道で一流の研究者たちが集まり、最先端の研究が行われている場であることに変わりはありません。

みなさんはこれから、そのような場所に放り込まれるのです。学部を卒業したばかりの、5年一貫の課程に入学した人に対しては、もちろん、基礎的な科目の講義などはありますが、誰もが初めから「ミニ研究者」のように扱われることになるのではないかと思います。学部がないので、みなさんより下の学生たちはいませんし、多くの大学が持っているような、学生のための娯楽施設もないと言っていいでしょう。しかし、みなさんには、他の一般の大学院にいたのでは考えられないような研究環境が与えられます。その利点をおおいに活用しようと思い、初めからミニ研究者として扱われることに誇りを感じるようなみなさんであって欲しいと望みます。

大学としては、みなさんの研究環境が最善のものになるよう努力いたします。いろいろな相談を受けつけてお話をうかがい、生活環境支援についても、できる限りのことをしたいと思っています。何か問題が生じ、ご自分のいる専攻内部では問題が解決できないと思われたときには、いつでも本部に相談してください。

先ほども述べましたように、本学の専攻が置かれている研究所は、それぞれの分野で最先端の研究が行われている所です。そして、各専攻は、その分野の第一線の後継者を育てることをミッションの一つとしています。しかし、これからの学問をさらに発展させていくためには、現在の分野を越えて、新しい研究を開拓することも大切です。そのために本学では、自分の属する専攻以外の先生方からも指導をお願いする学内共同指導、そして、海外の大学や研究所の先生方からも指導をお願いする国際共同学位プログラムを実施しています。また、国際的に共同指導をお願いするのではなくても、海外の研究機関にしばらく滞在して、そこでの研究活動を経験する、海外インターンシップも用意しています。みなさんには、是非、このような野心的なプログラムに参加する可能性を考えていただきたいと思います。本学は、そのような志を持つ院生を最大限に支援いたします。総研大には 20 の専攻がありますが、それらを見渡し、どこと一緒に研究したら、これまでになかった興味深い研究の芽が出てくるか、各自で考えてみてください。

さて、総研大は、設立以来、深い専門性と広い視野、そして国際通用性を備えた研究者を育成することを目標にかかげてきました。深い専門性とは何でしょうか? それは、その研究分野の研究の状況を熟知しているということでしょう。それは、各専攻で研究していれば、自ずと身に付くと思います。

では、広い視野とは何でしょうか? それは、さまざまな学問分野の知識を広く身に付けているということではないと思います。昨今の学問は細分化が進み、個々の分野での研究はますます詳細になっていますから、それらの知識を全部身に付けるなど、到底不可能です。生物学も物理学も文学も歴史も、いろいろな知識をたくさん持っているということは、それなりに重要であり、持っているに越したことはありません。しかし、「広い視野」の本質は、単に「知っている」ことではないでしょう。そうではなくて、自分の専門分野に限らず、一般的に学問研究とはどういう作業であるのか、既存の知に対して批判的思考を展開するとはどういうことなのかなど、知的活動一般を理解した上で、自分の研究を俯瞰して語れるということなのだと思います。

各自の専攻の閉じた内部にいるだけでは、そういう広い視野を身に付けるのは難しいかもしれません。みなさんはこれから、自分の研究をするだけでまずは精いっぱいかもしれませんが、つねに、「広い視野」ということを念頭においていただければと思います。

最後の国際通用性とは何でしょう? 昨今の学問の世界では、おもに英語が主流となっています。一昔前なら、自分の研究内容を国際学会で、英語で発表し議論できることが国際通用性だったかもしれません。それももちろん必要ですが、今はそれだけではないでしょう。現在は多くの研究分野で、さまざまな国の人々と共同研究することが当然になってきています。総研大でも、院生の 34 パーセントが留学生です。みなさんは、卒業したあと、日本だけでなくどんなところでも、グローバルに活躍することが求められています。

そのときに必要なのは、この地球上に存在するさまざまな文化の多様性を理解し、それを尊重する態度を持った上で、自分自身の信条を持つことだと思います。自分自身の信条を持つとは、唯我独尊になることではありません。なぜそのような信条を持っているのかを、異なる信条を持つ人たちにも説明でき、そこに存在する違いを互いに認め合った上で、一緒に仕事をすることができる、ということだと思います。今日、入学されたばかりのみなさんには、まだ実感がわかないかもしれませんが、本学で研究する間には、こんなことも考えて頂きたいと思います。

入学式に引き続き行われるはずでありましたフレッシュマンコースでは、先輩たちによる各研究分野の紹介、研究者と社会とのかかわり、研究者にとっての書くことと発表することの技術、という3つの点を中心に、みなさんの間でたくさんの議論をしていただく予定でした。このコースは、どんな分野の研究をするにせよ、研究者という存在はどうあるべきか、ということを考えるきっかけを与えるものであると共に、専攻を越えてみなさんの間の絆を築く場でもあります。今回は、葉山での開催ができなくなりましたが、いずれ、一同に介して議論していただきたいと思います。

改めまして、本日は、ご入学おめでとうございます。これからの研究生活が実り多いものとなりますよう、お祈り申し上げます。

総合研究大学院大学 学長

長谷川眞理子

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