2023.04.07

2023年度春季入学式 学長式辞

2023年4月4日(火)、2023年度春季入学式が行われました。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

2023年度春季入学式 学長式辞

総合研究大学院大学SOKENDAIに入学された皆さん,入学おめでとうございます。このたび本学に入学されたのは,5年一貫制博士課程45名,博士後期課程34名の皆さんです。本学の教職員を代表して,皆さんの入学を心から歓迎いたします。

この3年間は,新型コロナウイルス感染拡大によって,本学でも全ての式典がオンラインで行われましたが,世界的にもPost-Covidの生活様式が定着しつつある中で,今年は対面での入学式を開催することができました。本学の院生として新たな一歩を踏み出される皆さんの新鮮でやや緊張された雰囲気を直に感じることができますのは,大変嬉しいことです。

皆さんは既にご承知のことと思いますが,本学は「大学共同利用機関」と呼ばれる国立の研究機関で次世代を担う博士人材を育成するために設立された大学です。これらの研究機関は,本学の大学院教育の基盤となっていることから,学内では「基盤機関」と呼ばれています。全国に20ある基盤機関は,大規模な実験施設や先端的な研究設備,貴重な研究資料を備え,第一線の研究者集団を擁しています。そして,国内外の多くの研究者がその研究設備や資料を共同で利用し,また,機関の研究者と共同で研究を行っており,人文学から高エネルギー物理学に至る広範な学問分野で日本の学術研究を牽引する拠点となっています。本学の最大の特色は,そのような世界トップクラスの基礎研究が行われている機関を大学院教育の場としていることです。

さて,この会場にも掲げられている本学のロゴについて少しお話しましょう。このロゴは,2018年の大学創立30周年を機に新たにデザインされたものです。本学は正式な名称である「総合研究大学院大学」を略して,日本語でも「総研大」と呼ばれますが,それをローマ字表記したSOKENDAIは海外でも通用するようになってきました。そこで,新たなロゴにはそのローマ字表記が採用されました。高さの異なる文字のひとつひとつは基盤機関やそこで学ぶ人々の高い専門性や個性,自立性を表現しており,それらを繋ぐ線はSOKENDAIがIntelligence Connectorとして組織や人や研究を繋ぐ教育機関であることを表現しています。

次にお話したいのは,本学の教育課程に関することです。本学は,これまで6つの研究科と20の専攻で構成されていました。大学院の「研究科」というのは学問分野の大きな括りに相当します。本学では,文化科学・物理科学・高エネルギー加速器科学・複合科学・生命科学・先導科学という括りになっていました。さらに,それぞれの研究科はその分野を専門領域とする「専攻」で構成されます。本学では,基盤機関のそれぞれが専攻となって大学院教育を担当することで,高い専門性をもった博士課程教育を行ってきました。

一方で,昨今の学術の動向に眼を向けると,測定技術や情報処理技術が飛躍的に向上したことによって,より高度で複雑な事象や現象を研究の対象とすることができるようになりましたが,研究の深度が高まるに連れて,それらがあまりに専門化・細分化されてしまったために,ひとつひとつの事象・現象を解明すると同時に,それらを有機的に繋げ,もう少し大きな括りで物事の全体像を把握し・理解し・説明しなければ,人類社会全体の知に還元することが難しくなっている,そのような状況にあると思います。そのため,これからの学術研究のあり方が議論される際には,必ずと言ってよいほど「分野を越えて」とか「異分野と融合して」などの言葉が使われます。

そのような学術の動向と,そして,これからの社会が必要とするであろう博士人材像を考え,SOKENDAIは大きな決断をしました。まさに皆さんが入学したこの4月から,これまでの6研究科20専攻を先端学術院20コース体制へと移行することにしたのです。その大きな狙いは,研究科や専攻という組織の壁を取り払い,流動性を高めることにあります。この「流動性」とは何か。具体的には,在学中に海外や国内の他の研究機関・大学に行って研究活動を行うことも流動性のひとつです。日常的には,他のコースで開講される授業科目を履修して,自身の専門とは異なる領域の知識を得ることも流動性と言えるでしょう。学会やセミナーで,いつもとは違うコミュニティの研究者や学生と議論することも流動性に繋がるでしょう。より抽象的に言えば,流動性とは,物理的にでも,精神的にでも,また思考においてでも,境を越えること=越境border crossingだと思います。日常生活や研究活動において,人は無意識のうちに自分の守備範囲を決めてしまうことはないでしょうか。自らの周りにそのようなborderがあることを意識して,それを越えることで新たな発想や新たな視点を手に入れて課題に取り組んでいく。新しい教育課程は,そのような学修や研究活動をよりやり易くするために設計されています。そして,本日入学された皆さんは,その新たなSOKENDAIの第1期生です。SOKENDAIの環境を存分に活用して,自由な発想ができる研究力を養っていただければと思います。

皆さんは,これから全国に点在する基盤機関で新しいことに取組もうとされています。新たなことに取組む際に,是非,意識して頂きたいのは「想像力」です。研究をする上での“そうぞうりょく”と言うと,皆さんは「創造力creativity」を思い浮かべるかもしれません。しかし,私が申し上げたいのは寧ろ「想像力imagination」なのです。何かをやろうと思ったときに,私がよく思い浮かべる言葉に「人が想像できることは,必ず人が実現できる(Anything one man can imagine, other men can make it real.)」というのがあります。これは,19世紀に活躍し,後にサイエンス・フィクションの父と呼ばれたフランスの小説家の言葉とされています。勿論,この言葉の本来の文脈は「人類は自らが考えついたことは必ず何等かの方法で実現してきた」ということであり,例えば,月面に人が降り立つことができたのは,月に行くことを想像した人がいたからだということなのですが,それをもっと身近に個々人の活動のレベルで考えてみれば,人は思いつかなければやらない,あるいは,思いつかない事は実現しようがない,ということでしょう。

これから皆さんが研究の対象や課題を設定し,日々研究を進めていくうえで,さらにその先の人生においても,想像力は強い味方となるはずです。しかし,人は何もない処から何かを想像することはできません。何かを思いつく,考えつくためには,たとえ断片的であっても取っ掛りとなる知識やちょっとした経験など,想像を広げていくためのパーツが必要です。当然のこと乍ら,パーツの数が多ければ,それだけ組み合わせのバリエーションも増えることでしょう。そのために,様々なことに興味や関心をもち,積極的に多様な価値観や異なるものの見方に触れるように心掛けてください。その観点から,先程述べた流動性と想像力とは大いに関係していると言えるでしょう。

最後に一言。皆さんは,それぞれが専門と決めた分野で研鑽を積み,博士の学位を取得することを目指してこの大学院に進学されました。確かに,学位は博士課程の最終ゴールです。しかし,学位を取得することのみに意味があるとは思いません。これから皆さんが日々取り組まれる研究や学修のなかで,想像の翼を広げ,そして想像したもの,思いついたことにわくわくしながら,その実現に向かって挑戦する。時には思い通りにならずに失意に暮れることがあっても,自分が何にわくわくしたのかを思い出して,また夢中になれる。そんな時期を過ごすことにこそ意味があると思うのです。夢中になって研究に打ち込んでいて,知らず知らずのうちに自立した研究者としての力量を身につけ,結果として学位がついてくる。皆さんには,そのような大学院生活を送って欲しいと心から願っています。大学も,教職員一同も,そのために出来る限り皆さんの支援をしていく所存です。

改めて,本日はご入学おめでとうございます。 

 

2023年4月4日
総合研究大学院大学 学長
永田 敬

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