2024.07.08

【プレスリリース】宇宙の飛躍:米国航空宇宙局(NASA)のスウィフト衛星と人工知能が最も遠いガンマ線バーストの距離を解明

Maria Giovanna Dainotti 1,2,3,16 , Aditya Narendra 4,5,16 , Agnieszka Pollo 5,6 , Vahé Petrosian 7,8,9 , Malgorzata Bogdan 10,11 , Kazunari Iwasaki 1,2,12 , Jason Xavier Prochaska 13 , Enrico Rinaldi 14 , David Zhou 15

1 National Astronomical Observatory of Japan, 2 The Graduate University for Advanced Studies, SOKENDAI, 3 Space Science Institute, 4 Doctoral School of Exact and Natural Sciences, Jagiellonian University, 5 Astronomical Observatory of Jagiellonian University, 6 National Center for Nuclear Physics (NCB), 7 Department of Physics, Stanford University, 8 Kavli Institute for Particle Astrophysics and Cosmology, Stanford University, 9 Department of Applied Physics, Stanford University, 10 Department of Mathematics, University of Wroclaw, 11 Department of Statistics, Lund University, 12 Center for Computational Astrophysics, National Astronomical Observatory of Japan, 13 University of California, 14 Interdisciplinary Theoretical and Mathematical Sciences (iTHEMS) Program, RIKEN, 15 Arizona State University, 16 The first and second authors have contributed equally.

発表のポイント

米国航空宇宙局のスウィフト衛星による観測データを機械学習モデルと組み合わせることで、ガンマ線バーストの距離推定の精度が格段に向上しました。

(図)ガンマ線バーストの距離を機械学習で決定
この図は,スウィフト衛星を使ってガンマ線バーストを検出し,先進的な機械学習を用いて地球上でその放射を分析する一連の過程を描いています。この最先端のアプローチにより,距離(赤方偏移)が未知であるガンマ線バーストまでの距離を決定できます。それによって宇宙の謎を解明する手がかりが得られます。
© NASA, Aditya Narendra, Maria Giovanna Dainotti, and Agnieszka Pollo

研究概要

人工知能(AI)の登場は,社会の革命的な変化をもたらすものとして称賛されています。AIは私たちの生活のほぼ全ての側面を改善する可能性の宇宙を拓くからです。天文学者らは今,文字通りAIを使って宇宙膨張を測定しています。

国立天文台のマリア・ジョヴァンナ・ダイノッティ助教(ネバダ大学ラスベガス校ネバダ宇宙物理学センターの客員教授)が主導した2件の最近の研究で,複数の機械学習モデルを組み合わせて,ガンマ線バーストという宇宙で最も明るく激しい爆発現象の距離測定の精度を格段に向上させる新たな手法を開発しました。

ガンマ線バーストは、数秒で太陽が一生かけて放出するのと同じ量のエネルギーを放出します。ガンマ線バーストは極めて明るいので,光で見ることができる宇宙の最遠端を含め,遠く離れていても観測することができます。そのため、ガンマ線バーストは最も年老いた最も遠い星を探すのに有用です。しかし現在の観測技術の限界のため,ガンマ線バーストの中で, どのくらい遠くで起きたのかを計算するのに必要となる観測量が全て測定されているのは,ごく一部しかありません。

ダイノッティ助教とその研究チームは,現在の観測技術の限界を克服するために,アメリカ航空宇宙局(NASA)のガンマ線バースト観測衛星ニール・ゲーレルス・スウィフトで取得したデータを複数の機械学習モデルと組み合わせることで,これまでわからなかったガンマ線バーストまでの距離を正確に推定しました。ガンマ線バーストは, 遠方で起こっても比較的近傍で起こっても観測できるため,その発生場所の分布を知ることで, 星がどのように進化するのか,また特定の空間と時間内で,どれだけのガンマ線バーストが起こるのかを明らかにすることができます。

「この研究は,ガンマ線天文学と機械学習の両分野における新たなフロンティアを切り開きます。」とダイノッティ助教は話します。「追跡調査と高度な機械学習手法の導入により,さらに信頼性の高い結果が得られ,私たちの宇宙が生まれた頃のプロセスや,宇宙がどのように進化したのかを含む,いくつかの重要な宇宙論的な疑問に答えることができるようになるでしょう。」

研究成果

人工知能が深宇宙観測の限界を押し上げる

ダイノッティ助教とポーランドのヤギェウォ大学の博士課程最終学年のアディティア・ナレンドラ氏は,複数の機械学習の手法を駆使して,スウィフト衛星に搭載されている紫外線/可視光望遠鏡と,すばる望遠鏡を含む地上望遠鏡とで観測されたガンマ線バーストの距離を正確に測定しました。これらの測定は,距離に依らない観測量のみに基づいて行われました。本研究成果は,Dainotti et al. “Gamma-Ray Bursts as Distance Indicators by a Statistical Learning Approach”として,米国の天文物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2024年5月24日付で掲載されました。

「この研究結果は非常に正確なので、推定された距離を使って,特定の空間と時間におけるガンマ線バーストの発生数(頻度と呼ばれる)を決めることができます。推定した頻度は,観測によって実測された頻度に非常に近い値になることがわかりました。」とナレンドラ氏は話します。

ダイノッティ助教率いる国際研究チームによる別の研究では,スウィフト衛星に搭載されたX線望遠鏡(XRT)によって観測されたガンマ線バーストの残光データに対し,機械学習を適用することで,ガンマ線バーストの距離を測定することに成功しました。これらのデータはいわゆるロング・ガンマ線バーストというガンマ線バーストの種類から得られたものです。ガンマ線バーストは様々なプロセスで起こると考えられています。ロング・ガンマ線バーストは,大質量星が寿命を迎え,超新星爆発を起こしたときに起きます。それに対しショート・ガンマ線バーストと呼ばれる別の種類は,中性子星などの恒星が死んだ後に残る残骸同士が衝突するときに起きます。

ダイノッティ助教によると,このアプローチの新規性は,複数の機械学習手法を組み合わせて,その総合的な予測能力を向上させる点にあるとのことです。この手法は,「超学習(Superlearner)」と呼ばれ,各機械学習手法に0から1の範囲で重みを割り当てます。この重みがそれぞれの手法の予測能力に対応します。「超学習の利点は,最終的な予測が単一の手法を使った場合よりも常に高性能であるという点です」とダイノッティ助教は述べます。「超学習はまた,最も予測精度が低い機械学習手法を取り除くためにも利用します。」

本研究成果は,Dainotti et al. 2024 “Inferring the Redshift of More than 150 GRBs with a Machine-learning Ensemble Mode”として,米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメント・シリーズ』に2024年2月26日付で掲載されました。この研究は,これまで距離のわからなかったロング・ガンマ線バースト154天体の距離を精度よく推定し,距離が既知のロング・ガンマ線バーストの天体数を大幅に増やしました。

ガンマ線バースト形成に関する難問に答える

3件目の研究は,スタンフォード大学のヴァヘ・ペトロシャン教授とダイノッティ助教が主導し,2月21日付で米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レター』にて発表されました。スウィフト衛星が取得したX線データを使って得られたガンマ線バーストの発生頻度が,少なくとも相対的近い距離では,星形成率に従わないことがわかりました。「これは、近距離でのロング・ガンマ線バーストが、大質量星の崩壊によってではなく、中性子星のような非常に密度の高い物体の合体によって生成される可能性を示しています。」とペテロシャン教授は述べています。ダイノッティ助教と彼女の同僚は現在、NASAのスウィフト衛星客員研究者プログラム(第19サイクル)の支援を受けて、対話形式のウェブアプリケーションを通じて機械学習ツールを公開する作業を進めています。

論文情報

  • 掲載誌: The Astrophysical Journal Letters
  • 論文タイトル: “Gamma-Ray Bursts as Distance Indicators by a Statistical Learning Approach”
  • 著者: Maria Giovanna Dainotti, Aditya Narendra, Agnieszka Pollo,Vahé Petrosian, Malgorzata Bogdan, Kazunari Iwasaki, Jason Xavier Prochaska, Enrico Rinaldi, and David Zhou
  • 掲載日: 2024年5月24日(オンライン公開
  • DOI: 10.3847/2041-8213/ad4970

研究サポート

  • MINIATURA2, Numer: 2018/02/X/ST9/03673
  • Visibility and Mobility module of the Jagiellonian University(Grant number: WSPR.WSDNSP.2.5.2022.5)
  • NAWA STER Mobility Grant (Number: PPI/STE/2020/1/00029/U/00001)
  • Swift GI Cycle XIX, grant number 22-SWIFT22-0032
  • Polish National Science Center grant UMO-2018/30/M/ST9/00757
  • Polish Ministry of Science and Higher Education grant DIR/WK/2018/12

問い合わせ先 

  • 研究内容に関すること
    Maria Giovanna Dainotti(国立天文台・総合研究大学院大学 天文科学コース 助教)
    電子メール:maria.dainotti@nao.ac.jp
  • 報道担当
    国立大学法人 総合研究大学院大学
    総合企画課 広報社会連携係
    電話:046-858-1629
    電子メール:kouhou1@ml.soken.ac.jp

関連リンク

PAGE TOP