2025.10.22
【プレスリリース】プラズマ閉じ込め性能を決める新たなメカニズムを発見~大きい渦が小さい渦を引き伸ばしたり抑えつけたりしている~
概要
自然科学研究機構核融合科学研究所(岐阜県土岐市)の徳沢季彦教授、居田克巳特任教授、総合研究大学院大学博士課程の那須達丈さん、京都大学の稲垣滋教授らの研究グループは、サイズの異なる二つの揺らぎを同じ場所で同時に観測できる高性能の乱流計測器を開発し、大型ヘリカル装置の高温プラズマの微小な揺らぎの観察に適用しました。この度、大きいサイズの乱流渦が、サイズの小さい乱流渦を引き伸ばして、その成長を抑えているということを発見しました。これまでのプラズマ閉じ込めモデルでは考慮してこなかった、この二つの揺らぎの間で生じている相互作用のメカニズムは、プラズマの閉じ込め性能に大きな影響を与えていると考えられ、将来の発電炉の性能を予測する上で大変重要な知見を得ることができました。
この研究成果をまとめた論文がCommunications Physicsに10月6日に掲載されました。 また、第30回国際原子力機関(IAEA)核融合エネルギー会議にて10月15日に発表されました。
研究背景
核融合プラズマを効率よく閉じ込め、発電に用いる大きなエネルギーを蓄えるための研究が世界中で精力的に進められています。プラズマの閉じ込め性能は、プラズマの中で発生する様々な大きさを持つ揺らぎ・乱流※1によって、プラズマのエネルギーやプラズマを構成する粒子の排出が引き起こされ、劣化してしまうことが知られており、この物理現象を理解して性能劣化を抑制することが求められています。特に、世界中の実験装置で行われてきた高温プラズマの閉じ込め研究から、プラズマ中の様々な場所で発生する数センチメートル程度(ミクロサイズ)の大きさの乱流渦がこの閉じ込め性能の劣化に大きな影響を与えていることが分かってきました。そして、このミクロサイズの乱流を抑制することによって、性能が「ある程度」向上する※2ことがこれまでに知られています。しかしながら、なぜこれ以上の向上が達成されないのか、ということが分かっていませんでした。また、将来の核融合発電炉では、ミクロサイズよりもさらに小さなサイズの乱流が、サイズの異なる乱流と相互作用しながら閉じ込めに影響を与えることが理論・シミュレーション研究から予見されており、実験で確かめることが期待されていましたが、そのような小さなサイズの乱流の観測には非常に高い計測技術が求められるためこれまで検証されていませんでした。
研究成果
二種類の異なるサイズの乱流の特性を調べるために、核融合科学研究所の徳沢季彦教授、居田克巳特任教授、総合研究大学院大学大学院生の那須達丈さん、京都大学の稲垣滋教授らの研究グループは、それぞれの乱流渦の大きさに適合した乱流計測器※3を開発し、図1のように大型ヘリカル装置(LHD)※4のプラズマの中の同じ位置を同時に観測し、それぞれの乱流強度がどのように変化するのかを調べました。特にサイズの小さい方の乱流渦に対しては二方向から同時に観測することで、乱流渦の引き伸ばし度の変化も捉えられるようにしました。この乱流渦の引き伸ばし度を調べることで、その位置にあるプラズマに作用している力の状態を知ることができます。
LHDプラズマを観測した結果、大きい方のサイズの乱流(図2の青色の渦)強度が突然減少するという現象が発生した時、サイズの小さい方の乱流(図2の赤色の渦)強度は逆に増大すること、さらにこの小さいサイズの乱流渦の引き伸ばし度が弱くなっているということを発見しました。これは、大きいサイズの乱流渦が発生させる電場の力によって小さいサイズの乱流渦が引き延ばされたというモデルで説明できます。すなわち、大きいサイズの乱流が強く、これによって引き伸ばされ抑制されていた小さなサイズの乱流が、大きいサイズの乱流が弱くなったため成長し始めるというメカニズムが働いていると考えられます。そして、このような小さいサイズの乱流が成長してしまうことが、これまで謎であったミクロサイズの乱流(ミクロですが、今回の研究ではサイズの大きい方の乱流)が減少したにもかかわらず閉じ込め改善が「ある程度」までで留まってしまう要因ではないかと推測されました。

図1.異なる二つのサイズの乱流の特性を調べるため、ミリ波散乱計測装置を設置した。青い二つのアンテナはサイズの小さい方の乱流を二方向から同時に観測し、緑色のアンテナは同じ位置でサイズの大きい方の乱流を観測する。

図2.大きいサイズの乱流が強く小さい乱流渦は引き延ばされて弱い状態(左)から、大きいサイズの乱流が弱くなり小さいサイズの乱流が強く成長する状態(右)へと変化する。
研究成果の意義
日本も国際協力で参画しているITER※5で実現される核燃焼プラズマは、核融合反応で発生したアルファ粒子によるプラズマ加熱機構が主となり核融合反応が続く、いわゆる自己点火条件を維持するプラズマであることが期待されています。そのような状態では、本研究で観測した小さなサイズの乱流渦が現在よりも強く励起され、プラズマの閉じ込めに現在よりも大きな影響を与えると考えられています。そのため現在、世界中でこの小さいサイズの乱流の実験検証が活発化し始めていますが、我々の研究グループはこの問題を早くから認識し計測手法の開発を先駆して進めたことにより、乱流の応答を知るだけでなく、乱流渦の引き伸ばし度を検証できるような計測手段を編み出すことに成功し、今回の世界初の発見につながりました。
今後の展開
核融合炉開発の観点では、今回発見した小さなサイズの乱流と大きなサイズの乱流とが影響し合うことは、近年の大型計算機の性能向上を活用した最新の理論・シミュレーション研究で示唆されていましたが、今回、実験観測例が初めて得られたことから、シミュレーション計算で用いている理論モデルの検証が可能となりさらなる高精度化が進展すると期待されます。そして、そのような理論モデルを基に運転がなされる将来の核融合炉の性能向上へと繋がっていくと期待されます。
学術的な観点からは、サイズの異なる様々な乱流の間の相互作用や突発的な乱流渦の構造変化は、実験室の核融合プラズマだけでなく宇宙プラズマでも議論されており、今回LHDで得られた高温プラズマでの詳細な実験観測結果は、他分野のプラズマ物理の理解にも貢献すると期待できます。
用語解説
※1 プラズマ乱流
プラズマの温度や密度の空間不均一性がもたらす揺らぎ。原因となる要素の種類によって様々な大きさの揺らぎが発生する。今回着目した揺らぎの大きさは、プラズマを構成する電子やイオンなどの荷電粒子が閉じ込め磁場に巻き付く特徴的な大きさ程度で、数10マイクロメートルから数センチメートル程度の大きさ。
※2 閉じ込め性能向上
プラズマ中で自然発生する電場の強い不均一性に由来するシア流によって、ミクロサイズの乱流が抑制されるH-modeと呼ばれる良い閉じ込め性能のモードが知られている。しかしその性能向上の限界は何で決定されているのか、という謎についてはまだ議論が続いている。
※3 乱流計測器
本研究では、ミリ波とマイクロ波を光源として用いた散乱計測法を用いて小さい乱流渦と大きい乱流渦の観測を行った。これらの電磁波を用いた計測手法は、プラズマに接触することなく微細な変化を観測することができる。今回は新たに金属レンズを用いた特殊なアンテナをLHDの真空容器内に設置したことで高精度での観測が可能となった。
※4 大型ヘリカル装置(LHD)
岐阜県土岐市の核融合科学研究所にある世界最大級のヘリカル型超伝導プラズマ実験装置。安定したプラズマを長時間維持することができる特長を持ち、豊富で高性能な各種計測機器が敷設されており、高度な物理実験が可能である。
※5 イーター(ITER)
核融合反応で発生するアルファ粒子で自己加熱する核燃焼プラズマを研究する国際協力プロジェクトの磁場閉じ込め実験装置。フランスで現在建設中。
論文情報
研究サポート
本研究は、科学研究費助成事業(科研費)(19H01880、21H04973、23H01161、23K25858、24K06997)の助成を受けて実施されました。また九州大学応用力学研究所との共同研究(2025S2-CD-12)により行われました。
本件のお問い合わせ先
- 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
研究部 位相空間乱流ユニット 教授 徳沢 季彦(とくざわ ときひこ)
電話: 0572-58-2217
E-mail: tokuzawa(at)nifs.ac.jp - 国立大学法人 京都大学 エネルギー理工学研究所
教授 稲垣 滋 (いながき しげる)
電話: 0774-38-3484
E-mail: s-inagaki(at)iae.kyoto-u.ac.jp
研究内容について
- 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係
電話: 0572-58-2019
E-mail: taigai-kakari(at)nifs.ac.jp - 国立大学法人 総合研究大学院大学
総合企画課 広報社会連携係
電話:046-858-1629
E-mail:kouhou1(at)ml.soken.ac.jp - 国立大学法人 京都大学 広報室国際広報班
電話:075-753-5729
E-mail:comms(at)mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
本件の広報及び取材の申し込みについて
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