2026.06.10
【プレスリリース】採餌に失敗したペンギンは仲間の持つ情報を利用して餌場を探す
【概要】
動物はしばしば同種の仲間同士で集まり、集団繁殖地(コロニー)を形成します。コロニーを作る利点として、仲間から「よい餌場がどこにあるのか」についての情報が得られると予想されてきました。一方、実際の野生動物が、どの仲間から情報を得て、いつその情報を使うのかを解明することはこれまで困難でした。
本研究では、南極のコロニーで繁殖するアデリーペンギンを対象とし、その約4割の個体にGPSデータなどを記録できる行動記録計を装着することで、ペンギンの移動を群れ単位で調査(バイオロギング*)しました。この記録を解析することで、ペンギンがどのようなときに、どのような情報を利用して餌を探しているかを検証しました。
結果として、アデリーペンギンはコロニーを出発して餌場へ向かう際に、しばしば群れを作っていることが明らかになりました。さらに、群れ内の各個体について行き先の決まり方を調べたところ、過去に餌の獲得に失敗していたペンギンは、他のペンギンを追跡する形で新たな餌場に到達する傾向にあることがわかりました。この結果は、コロニーを起点として生じる群れでの移動が、餌場についての情報を獲得する場になっていることを示唆します。
本研究は集団生活が動物にもたらす利益を明らかにすることを通して、動物の社会生活がなぜ進化したか、また個体数の減少が動物にどのような影響をもたらすかの解明に貢献するものです。
【研究の背景】
多くの動物は集団で生活しています。特に海鳥では、ほとんどの種が繁殖期に集団繁殖地(コロニー)を形成します。コロニーの形成には、餌をめぐる競争が強まる、病気が広がりやすくなるといった不利な点もあります。それにもかかわらず、多くの動物がコロニーを作るように進化してきたことから、そこには何らかの利点があると考えられています。
その有力な仮説の一つが、「仲間から餌場についての情報を得られる」というものです。餌場がどこにあるか、またその餌場がどれくらい良い場所なのかは、動物の生存や繁殖成功を左右する重要な情報です。仲間と集まって営巣し、その行動を観察することによって、餌場の位置や質についての情報が得られる可能性があります。このような他個体から得られる情報は、社会的情報と呼ばれています。しかし、実際の野生動物が、どの仲間から社会的情報を得るのか、また、いつ社会的情報を使うのかを検証した例はほとんどありませんでした。
そこで本研究では、コロニーを作るアデリーペンギンが、どのような情報源をもとに餌場を選択しているかを解明することを目的としました。このために、昭和基地付近で確認されている、アデリーペンギンの比較的小さなコロニーを対象とし、その約4割の個体の行動をバイオロギングにより調査することを試みました。調査を行った育雛期には、アデリーペンギンはつがいの雌雄が交代で巣を離れ、およそ24時間かけて海で餌を採り、コロニーに戻って雛に餌を与えます。この餌場とコロニーの間の往復移動(トリップ)の記録を解析することで、各個体が餌場についてのどのような情報を利用しているかを検証しました。
【研究の成果】
調査は南極リュツォ・ホルム湾の鳥の巣湾にあるアデリーペンギンのコロニーで行いました。このコロニーには135つがいが繁殖しており、そのうち最大で116個体を同時に調査しました。これは、繁殖している成鳥の43%に相当します。
これらの個体から得られた653トリップの移動データを解析した結果、アデリーペンギンは多くのトリップで、自分が前回のトリップで利用した餌場に再び向かうような行動を取っていました(図1B左上)。これは自身の経験に由来した餌場の情報の利用と解釈されます。一方で、ペンギンはしばしばコロニーを数個体で同時に出発し、共に餌場に向かって移動していました(図1A)。これらのトリップに注目すると、群れ内の一部の個体は、仲間が前回のトリップで利用していた餌場を訪れていることがわかりました(図1B右上)。この結果は、アデリーペンギンがコロニーの仲間と群れをなして出発・移動することで、「仲間が過去、どこにいったのか」という社会的情報にアクセスし、新たな餌場に到達できたことを示しています。
これに加えて、潜水深度の記録からトリップ中にどの程度採餌に成功していたかを推定し、前回のトリップでの採餌の成功度と餌場の情報源との関係を調べました。その結果、前回のトリップで採餌がうまくいかなかった場合に、ペンギンは社会的情報を利用して別の餌場に到達する傾向にあることがわかりました(図2)。こうした「成功したら同じ場所を使い、失敗したら場所を変える(win-stay lose shift)」戦略は、繁殖期全体でより多くの餌を獲得することに寄与していると考えられます。
以上のように、本研究結果は、アデリーペンギンが採餌に失敗した際に、コロニー内の仲間と行動を共にすることで餌場についての社会的情報を獲得し、利用していることを示すものです。これは、動物が集団で生活することの利点を野外での行動データに基づいて実証するものであり、動物の社会生活がなぜ進化したか、また個体数の減少が動物にどのような影響をもたらすかの解明に貢献する、重要な成果であるといえます。
図1 (A) コロニーを同時に出発したペンギンの群れの、その後の移動経路の例。背景画像の作成にCopernicus Sentinel data 2024を使用した。(B)各トリップにおける移動経路(色付き丸印)と、前回のトリップで利用したエリア(等高線)との関係。4つの図は、それぞれ異なる情報源の利用がみられたトリップを示す。実線の等高線は各個体の前回のトリップでの利用エリア、点線のトリップはコロニーを同時に出発した他個体の前回のトリップでの利用エリアを示す。
図2 餌場の情報源の推定結果と、各トリップのひとつ前のトリップにおける採餌成功との関係を表した図。社会的情報を利用しているときは、自身の経験に由来する情報を利用しているときよりも採餌の成功度が低い。
【今後の展開】
本研究は、バイオロギングによって多数のアデリーペンギンを同時に調査することで、本種が他個体と一緒にコロニーを出発し、移動を共にすることを通して、仲間から餌場に関する情報を得ていることを示しました。今後はさらに詳細な行動記録を集めることで、集団移動中の各個体の位置関係の変化や、個体同士の行動のやりとりを明らかにできる可能性があります。これにより、ペンギンがどのような行動のやりとりによって集団を維持し、本研究で発見されたような社会的情報の獲得を実現しているか解明できると考えられます。また、本研究の調査地は比較的小さなコロニーであり、餌場となる海が定着氷に覆われているという特徴がありました。今後は異なる環境や異なる規模のコロニーでも調査を行うことで、仲間からの情報利用がどの程度一般的な現象なのかを明らかにする必要があります。
このような研究を進めることで、動物が集団で暮らすことの意味や、変化する環境に対する適応戦略について、より深く理解できると期待されます。
【用語解説】
*バイオロギング
動物にさまざまなセンサーを搭載した記録装置を取り付け、その行動、生理状態、周囲の環境などに関する情報を、遠隔的・連続的に記録する調査手法。
【論文情報】
【謝辞】
本研究はJSPS科研費JP22H03737, JP22K18432, JP22K21355, JP23K24991, JP24KJ1158の助成を受けて行われました。また、現地調査は第64次および第65次南極地域観測隊の支援により行われました。
【問い合わせ先】
- 今木 俊貴(総合研究大学院大学・複合科学研究科極域科学専攻 5年一貫制博士課程5年)
電子メール:imaki.toshitaka(at)nipr.ac.jp - 高橋 晃周(総合研究大学院大学・先端学術院極域科学コース/国立極地研究所 教授)
電子メール:atak(at)nipr.ac.jp
研究内容に関すること
- 国立大学法人 総合研究大学院大学
総合企画課 広報社会連携係
電話:046-858-1629
電子メール:kouhou1(at)ml.soken.ac.jp - 国立極地研究所 広報室
電話:042-512-0655 FAX: 042-528-3105
電子メール:koho(at)nipr.ac.jp
報道担当
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