2026.06.29

【プレスリリース】南極の空を流れる“大気の川”を三次元で捉える!

図

南極大陸上空を川のように流れる水蒸気「大気の川」の模式図。大気の川は南極大陸上に極端な降雪をもたらす現象として注目されており、本研究ではその三次元構造を捉え、南極の降水に及ぼす影響を評価しました。

【概要】

 髙橋和(総合研究大学院大学 先端学術院 先端学術専攻 極域科学コース)、猪上淳(国立極地研究所/総合研究大学院大学 教授)をはじめとする研究グループは、南極大陸上に極端な降水をもたらしうる現象として、近年注目されている“大気の川”の三次元的な検出手法を提案し、それが降水に与える影響を評価しました。本研究では、従来の二次元的な検出手法を三次元的に拡張することで、南極大陸上における大気の川の立体的な構造の検出を実現しました。その結果、南極大陸上の降水量の長期的な変化の大部分が、大気の川によってもたらされる降水量の変化により説明されることが明らかになりました。本研究の成果は、南極大陸上の降水の変動過程に対する理解を深めることに寄与すると期待されます。また、本研究成果をまとめた論文は、American Geophysical Union(AGU)が出版する科学雑誌Geophysical Research Lettersで公開されるとともに、科学ニュース誌 Eos において、注目論文を紹介する “Research Spotlight” に選出されました。

【研究の背景】

 南極大陸上には厚い氷が広がっており、これを南極氷床と呼びます。南極氷床がすべて融解し、海洋に流出すると、全球平均海面水準はおよそ60m上昇すると考えられています。南極氷床質量は主に海洋の熱による融解・流出と大陸上にもたらされる降水によって変動します。衛星観測により南極氷床の質量変化が見積もられるようになった1992年以降、南極氷床の質量は長期的に減少しており、海面水準の上昇への寄与も増大していることが知られています。しかし、南極大陸の一部地域では降水量が氷床損失量を上回るため、数十年にわたって氷床質量が増加しています。こうした南極氷床質量の増加に寄与する降水量の変化がどのような過程を通じて生じているのかを明らかにすることは、将来の海面水準変化を予測する上で重要な課題です。

 南極氷床質量の変動に影響を与える現象として、近年注目されているのが“大気の川”です。大気の川とは、大量の水蒸気が、空を流れる川のように細長い帯状の領域に集中して運ばれる現象です。大気の川は中低緯度から高緯度へ大量の水蒸気を運び、しばしば極端な降水をもたらします。そのため、南極大陸上に雪を降らせる重要な要因の一つとして注目されており、南極大陸上の降水にどの程度寄与しているのかを定量的に評価することが求められています。しかし、南極域の極端に寒冷で乾燥した大気環境により中緯度の大気の川検出によく用いられる基準が適用できず、また、標高の地域差が大きい氷床の地形によって一貫した検出基準を設けることが困難であるなど、南極大陸上の大気の川を適切に検出することは困難でした。そのため、大気の川が南極大陸上の降水量にどの程度寄与しているのかは、これまで十分に評価されていませんでした。

 そこで本研究では、従来広く用いられてきた二次元的な大気の川の検出手法を三次元的に拡張し、南極大陸上における大気の川の立体的な検出を行いました。さらに、この新たな検出手法を用いて、大気の川が南極大陸上の降水に与える影響を定量的に評価しました。

【研究の手法】

 大気の川の検出には、全球大気再解析データであるERA5を用いました。

 従来の二次元的な手法では、鉛直方向の水蒸気輸送量を足し合わせた、二次元平面における「鉛直積算水蒸気輸送量」を用いて、大気中を流れる水蒸気の量が気候学的に多い場所、または周囲と比べて多い場所を大気の川として検出していました。しかし、標高の高い南極大陸上では、鉛直方向の大気層の厚さが小さいため、足し合わせられる水蒸気輸送量が他の地域に比べて小さくなります。その結果、従来の手法では、南極大陸上の大気の川を検出しにくいという課題がありました。そこで本研究で新たに提案する手法では、鉛直方向に足し合わせた量を補助的な判定材料としながら、高度ごとの水蒸気輸送量が周囲と比べて多い領域を抽出することで、三次元空間における大気の川を検出しました。これにより、南極大陸の高い地形によって生じるバイアスを抑制し、大陸上に侵入する、立体的な構造を有する大気の川の検出に成功しました。

 この新たな手法によって検出された大気の川と南極大陸内陸部の降水との関係を調べるために、第44次南極地域観測隊(JARE44)によってドームふじで観測された日降水量データと大気の川の発生状況を比較しました。

 さらに、1979年から2023年までの45年間について、気候学的な大気の川の発生頻度と南極大陸上の降水に対する大気の川の寄与の特徴を調査しました。

【研究の成果】

 大気の川の三次元的な構造を捉える新手法の採用によって、従来手法では十分に捉えることが難しかった、南極大陸上に広がる大気の川を検出できるようになりました。これにより、南極大陸上の降水に対する大気の川の影響を詳しく調べることを可能にしました(図1)。

 南極大陸内陸部に位置するドームふじでは、 JARE44の観測期間中に16回の極端な降水イベントが観測されています。本研究の解析によって、そのうちの10回が大気の川の影響を受けていたことが明らかとなりました。また、1年間で大気の川が検出された日は計17日程度であったにもかかわらず、大気の川に関連した降水量は、年間降水量のおよそ40%に相当することが示されました(図1)。

 大気の川の気候学的な特徴を見ると、南極大陸内陸部では大気の川の発生頻度は年間の5〜10%程度の日数である一方、大気の川に関連した降水量は年間降水量の30〜60%に達することが分かりました(図2)。この結果は、これまでの研究で考えられていたよりも、南極大陸上の降水に対する大気の川の寄与が大きい可能性を示しています。また、大気の川による降水への寄与には、大きな地域差があることも明らかになりました(図2)。

 加えて、1979年から2023年の45年間に見られる南極大陸上の降水量の長期的な変化は、大気の川に関連した降水量の変化によってその大部分を説明できることが示されました。このことは、南極大陸上の降水変動を理解する上で、大気の川が重要な役割を果たしていることを示しています。

図1

図1a. 新手法で捉えられた大気の川の空間分布を示します。b. 従来手法で捉えられた大気の川の空間分布を示します。検出を行った日は2003年8月1日、色は各気圧面を表しています。新手法による大気の川は南極大陸に向かって上昇していく構造を持つ一方で、従来手法によって捉えられた大気の川は南大洋上で直立した構造を示しています。c. JARE44で観測された日降水量の時系列を棒グラフで、大気の川が検出された日を青のシェードで示しています。赤い線は日降水量の平均値から1標準偏差大きい値を示しており、日降水量がこの値を超える連続的な期間を一つの極端な降水イベントとしました。

図2


図2 大気の川の検出頻度と年間降水量に対する大気の川の寄与を示します。東南極上では大気の川の頻度は年間の5〜10%程度の日数であるのに対して、年間降水量に対する大気の川の寄与は30〜60%となっています。

【今後の展開】

 これまでの研究によって、南極大陸上の降水量の変化は、南半球環状モードのような広い範囲で変動する大気循環場や地球温暖化と関係していることが知られています。しかし、こうした大気循環場の変化が、どのような過程を経て南極大陸上の降水変動に結びついているのかは、十分に解明されていませんでした。本研究で示した大気の川の検出手法は、南極大陸上の降水量が変化する過程を調べる上で、有用な、新たな解析の枠組みを提供します。今後、この手法を用いることで、大気循環場の変化、大気の川の発生、そして南極大陸上の降水変動を結びつけた南極大陸上の降水変動メカニズムの理解が進むことが期待されます。

【論文情報】

    • 論文タイトル: Capturing Antarctic Precipitation With a 3D Atmospheric River Algorithm
    • 掲載誌: Geophysical Research Letters
    • 掲載日: 2026年5月13日
    • 著者:
      髙橋和(総合研究大学院大学 博士後期課程3年)
      猪上淳(国立極地研究所/総合研究大学院大学 教授)
      佐藤和敏(国立極地研究所/総合研究大学院大学 助教)
      平沢尚彦(日本女子大学 客員研究員)
      山田恭平(国立極地研究所 研究員)

【謝辞】

 本研究は、JST SPRING(課題番号:JPMJSP2104)および日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(KAKENHI;課題番号:JP23H00523、JP24H02341)の支援を受けて実施されました。また、本研究は日本南極地域観測隊(JARE)のサイエンスプログラムの一環であり、文部科学省(MEXT)所管の国立極地研究所(NIPR)の支援を受けました。

【問い合わせ先】

    研究内容に関すること

  • 髙橋 和(総合研究大学院大学 博士後期課程3年)
    電話:042-512-0698
    電子メール:takahashi.kazu(at)nipr.ac.jp
  • 猪上 淳(国立極地研究所/総合研究大学院大学 教授)
    電話:042-512-0681
    電子メール:inoue.jun(at)nipr.ac.jp

    報道担当

  • 国立大学法人 総合研究大学院大学
    総合企画課 広報社会連携係
    電話:046-858-1629
    電子メール:kouhou1(at)ml.soken.ac.jp
  • 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所 広報室
    電話:042-512-0655
    電子メール:koho(at)nipr.ac.jp

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