2026.08.07

【プレスリリース】AIに「感情の地図」を描かせる GPT-4への問いかけで、99の感情語に潜む構造を可視化

 「喜び」と「驚き」は、どのくらい似ているのでしょうか。一方、「喜び」と「悲しみ」は、どのくらい離れているのでしょうか。

 私たちは、「うれしい」「怖い」「腹立たしい」といった感情を表す言葉を、意味の近さや違いに基づいて自然に整理しています。しかし、その全体像を人間だけで詳しく調べるのは簡単ではありません。感情語の数が増えるほど、比較すべき組み合わせが急激に増えるためです。

 基礎生物学研究所 神経生理学研究室のHan Ke特任助教と渡辺英治准教授(基礎生物学研究所 超階層生物学センター AI解析室 室長、総合研究大学院大学 准教授)は、AIのGPT-4(*1)に感情語を空間上へ配置させ、その結果を人間による配置と比較することで、感情語の意味関係を調べました。

 その結果、GPT-4に自然な文章で課題を与える「プロンプティング(*2)」によって、人間による感情語の配置とよく似た構造が再現されました。さらに、対象を99語に増やすと、少数の感情語だけでは見えにくかった「感情の高ぶり」、すなわち覚醒度に関係する構造が現れました。この成果は2026年7月10日にScientific Reports誌に掲載されました。

図1

図1. 研究手法の概要図

【研究の背景】

感情は「種類」だけでなく「位置」でも表せる

 感情は、「喜び」「怒り」「悲しみ」のような種類に分けることができます。一方、心理学では、感情をいくつかの連続的な軸の上に位置づけて表す考え方もあります。代表的なのが、次の三つの軸です。

・快・不快(Pleasure)(*3):心地よいか、不快か
・覚醒度(Arousal)(*4):興奮しているか、落ち着いているか
・支配性(Dominance)(*5):状況を自分で制御していると感じるか、圧倒されていると感じるか

 例えば、「興奮」と「安らぎ」は、どちらも比較的快い感情ですが、覚醒度は大きく異なります。また、「激怒」と「悲しみ」は、どちらも不快な感情ですが、やはり覚醒度には違いがあります。

 こうした感情の構造は、これまで主に、人に感情語同士の似ている度合いを評価してもらうことで調べられてきました。しかし、多数の感情語をくまなく比較する実験は、参加者への負担が非常に大きくなります。

【研究の成果】

三つの感情語を「地図」の上に置く

 研究チームは、三つの感情語を同時に画面上の格子へ配置する課題を考案しました(なお、本研究における課題は全て英語で実施されました)。

 例えば、「喜び(joy)」「驚き(surprise)」「悲しみ(sadness)」という三つの言葉が示された場合、意味が似ていると思う言葉同士は近くに、異なると思う言葉同士は遠くに置きます。三語を同時に配置することで、「喜びと驚き」「喜びと悲しみ」「驚きと悲しみ」という三つの関係を一度に表すことができます。

 最初の研究では、89人の参加者とGPT-4に、「喜び(joy)」「驚き(surprise)」「悲しみ(sadness)」「怒り(anger)」「恐れ(fear)」「嫌悪(disgust)」の六つの基本感情(*6)語を使って同じ課題を行わせました。さらに、感情語を数値の列として表す従来の「単語埋め込み(Embedding)(*7)」による結果とも比較しました。

図2

図2. GTP-4へのプロンプトの例
「喜び(joy)」「悲しみ(sadness)」「怒り(anger)」の3つの言葉を配置する課題

GPT-4の配置は、人間の配置によく似ていた

 六つの基本感情を分析すると、人間とGPT-4は、ともに次の二つのグループを作りました。

・「喜び(joy)」と「驚き(surprise)」
・「怒り(anger)」「恐れ(fear)」「嫌悪(disgust)」「悲しみ(sadness)」

 これに対して、単語埋め込みでは「喜び」と「怒り」が同じグループに入り、人間とは異なる構造になりました。また、人間とGPT-4が作った感情語間の距離には強い相関が認められました。人間の参加者同士の回答もよく一致しており、この課題によって、多くの人に共有されている感情語の意味関係を捉えられることが確認されました。ただし、この結果は、GPT-4が人間と同じ感情を経験していることを意味するものではありません。GPT-4が、人間の言語に含まれる感情概念の関係を利用して、人間に近い配置を作ったと考えられます。

図3

図3. 六つの基本感情に関する人間、GPT-4、単語埋め込みの比較
人間とGPT-4は「喜び」と「驚き」を同じグループに分類したのに対し、単語埋め込みモデルは「喜び」を「怒り」と同じグループに分類しました。

99の感情語を並べると、隠れていた軸が現れた

 次に研究チームは、対象を99の感情語に拡大しました。99語のすべての関係を人間の参加者が繰り返し比較することは、現実的には非常に困難です。一方、GPT-4を使えば、多数の組み合わせについて同じ課題を繰り返すことができます。分析の結果、GPT-4へのプロンプティングと単語埋め込みのどちらでも、感情語は主として「快・不快」と「支配性」に関係する二つの大きなまとまりに分かれました。ただし、GPT-4による配置の方が、二つのグループをより明瞭に分離していました。さらに詳しく調べると、GPT-4による配置からは「覚醒度」に対応する変化も検出されました。覚醒度は、感情語を大きく二分する主軸ではなく、それぞれのグループ内部を細かく分ける軸として現れました。

 例えば、快い感情の中でも、
 「興奮」は覚醒度が高い
 「安らぎ」は覚醒度が低い
という違いがあります。同様に、不快な感情の中でも、「激怒」と「悲しみ」では覚醒度が異なります。この覚醒度に関係する構造は、六つの基本感情だけを使った場合には明瞭ではなく、99語へ拡張した場合に検出されました。

図4

図4. 語彙を六語から99語へ増やすことで、覚醒度に関係する構造が明瞭になる

調べる言葉の数によって、見える感情構造が変わる

 今回の結果は、感情の構造を調べる際に、対象とする語彙の規模が重要であることを示しています。少数の代表的な感情語だけを使うと、「快か不快か」といった大きな違いは見つけやすい一方、「興奮しているか、落ち着いているか」といった細かな違いは見落とされる可能性があります。これまで提案されてきた感情理論の間に違いがある理由の一部は、研究で用いられた感情語の数や選び方にあるのかもしれません。

【今後の展望】

AIを「答えを出す装置」ではなく「測定道具」として使う

 単語埋め込みを研究目的に合わせて調整するには、機械学習の専門知識や学習用データ、計算環境が必要になることがあります。これに対して今回の方法では、研究者が自然な文章でGPT-4に課題を与え、その応答を分析します。そのため、心理学や言語学など、機械学習を専門としない研究者にも利用しやすい方法となる可能性があります。

 今後は、日本語を含む異なる言語でも同じ構造が現れるか、また文化によって感情語の配置がどのように変化するかを検討する予定です。

 なお、本研究が対象としたのは、感情の実体験そのものではなく、感情を表す言葉の意味的・概念的な構造(*8)です。GPT-4が示した構造が、実際の感情体験や脳内の感情表現とどこまで対応するかについては、今後さらに検証する必要があります。

図5

図5. 99の感情語のマッピング(代表的な語のみ表示)

【用語解説】

*1 GPT-4:
OpenAIが開発した大規模言語モデルです。大量の文章を学習し、入力された文章に応じて回答を生成します。本研究では、感情語同士の意味関係を配置する課題に用いました。

*2 プロンプティング(Prompting):
AIに対して、自然な文章で指示や質問を与える方法です。本研究では、三つの感情語を意味の近さに応じて格子上へ配置するようGPT-4に指示しました。

*3 快・不快(Pleasure):
感情が心地よいものか、不快なものかを表す軸です。

*4 覚醒度(Arousal):
感情に伴う興奮や高ぶりの程度を表す軸です。高い例は「興奮」「激怒」、低い例は「安らぎ」「悲しみ」です。

*5 支配性(Dominance):
状況を自分で制御していると感じるか、逆に圧倒されていると感じるかを表す軸です。

*6 基本感情:
多くの感情研究で基礎的なものとして扱われる感情の分類です。本研究では「喜び(joy)」「驚き(surprise)」「怒り(anger)」「恐れ(fear)」「嫌悪(disgust)」「悲しみ(sadness)」の六つを用いました。

*7 単語埋め込み(Embedding):
単語の意味の関係性を多数の数値の組み合わせで表す方法です。意味が似た単語ほど、数値空間で距離が近くなるように表現されます。

*8 意味的・概念的な構造:
言葉同士が、意味の近さや違いによってどのような関係を作っているかを指します。本研究は感情そのものではなく、感情を表す言葉の関係を調べました。

【この研究を日本語で体験するプロンプト例】 ぜひAIに入力してみて下さい

「悲しみ」「喜び」「驚き」という3つの感情があるとします。
100×100のグリッド上で、それらの感情間の距離が表現され
るように配置するとしたら、どのように配置しますか?

【発表雑誌】

  • 雑誌名: Scientific Reports
  • 掲載日: 2026年7月10日
  • 論文タイトル:Mapping 99 emotion terms with GPT4 prompting reveals nuanced semantic conceptual structure.
  • 著者: Han Ke, Eiji Watanabe
  • DOI: 10.1038/s41598-026-60536-4

現在Scientific Reports誌のサイトに掲載されているunedited versionにおいて論文の図が掲載されていません。図は下記のプレプリント版をご参照ください。
プレプリント: https://osf.io/preprints/osf/sdnbh_v5

【研究グループ】

 本研究は、基礎生物学研究所 神経生理学研究室のHan Ke特任助教と渡辺英治准教授(基礎生物学研究所 超階層生物学センター AI解析室 室長、総合研究大学院大学 准教授)による成果です。

【研究サポート】

 本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業、パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社などの支援を受けて行われました。

【本研究に関するお問い合わせ先】

  • 基礎生物学研究所 神経生理学研究室 准教授
    基礎生物学研究所 超階層生物学センター AI解析室 室長
    総合研究大学院大学 准教授
    渡辺 英治(ワタナベ エイジ)
    TEL: 0564-59-5595(研究室)
    E-mail: eiji(at)nibb.ac.jp または eijwat(at)gmail.com

【報道担当】

  • 基礎生物学研究所 広報室
    TEL: 0564-55-7628
    FAX: 0564-55-7597
    E-mail: press(at)nibb.ac.jp
  • 総合研究大学院大学 総合企画課 広報社会連携係
    TEL: 046-858-1629
    E-mail: kouhou1(at)ml.soken.ac.jp

※(at)を@に変換してください。

関連リンク

PAGE TOP