2025.11.27
【プレスリリース】都市のリスは子だくさん?人による「餌付け」がリスの繁殖状態を向上させることが明らかに~人の行動が身近な野生動物の生態を変えてしまう可能性を示唆する研究成果~
立命館大学OIC総合研究機構の高畑優専門研究員と総合研究大学院大学統合進化科学研究センターの沓掛展之教授は、人による餌やり行為(餌付け)をされている都市のリスの方が、郊外のリスよりも繁殖状態が良いことを北海道帯広市での調査により明らかにしました。餌付けが野生動物の繁殖に貢献し、都市への適応を促進することを示唆するものであるといえます。本研究成果は2025年10月20日に国際学術誌“Mammalian Biology”にオンライン掲載されました。
本件のポイント
- 都市と郊外に生息するエゾリスのメスの繁殖状態について比較
- 都市ではより高い割合でメスが妊娠し、出産した年齢期間が長いことが判明
- 都市のリスでは出産時期が早まり、これにより一年に出産する回数が増加することも判明
- 都市と郊外を大きく区別する要因に、「人による餌やり行為(餌付け)」があり、この餌付けがリスの繁殖状態を変化させたことが示唆された
研究成果の概要
都市は、今や多様な野生動物の生息地として機能し始めています。自然環境とは大きく異なる都市において、野生動物はどのように都市で生き抜き、世代を重ねているのでしょうか。
人が野生動物に餌を与える行為である餌付けは、都市において野生動物が餓死するリスクを回避し、蓄えたエネルギーを子育てにまわせるという点から、都市の野生動物の生存と繁殖に貢献する保全活動としてみなされてきました。しかし、実際に餌付けが野生動物、特に哺乳類の生存・繁殖状態を向上させるのかについては十分に調べられていませんでした。
本研究では、北海道帯広市の都市部と郊外部に生息するエゾリスの繁殖状態に着目しました。帯広市のエゾリスは、30年以上にわたる都市での生息が見られており、市民から日々餌付けをされています。一方、郊外のリスは、餌付けや人の介入がほとんどない環境で生息しています。この二つの環境に生息するリスを比較することで、都市での生活が引き起こす繁殖状態の変化について調査しました。
その結果、都市のリスは繁殖状態が良く、生涯に残す子の数が多い可能性が示唆されました。本研究は餌付けがリスの繁殖状態を向上させることを示した一方で、人による活動や行動が野生動物の生態をたやすく変えてしまうことも示唆しています。
研究の背景
■都市で生息する野生動物
「野生動物の生息地」というと、どのような環境をイメージするでしょうか。人が暮らす都市の中にも多様な野生動物が生息しています。このような都市に生息する野生動物は、人が提供する餌や環境をしたたかに利用することで都市に生息しています。都市化が進み、野生動物が本来生息していた自然が失われつつある昨今において、都市は「生物多様性を保全する場」として認識され始めています。今や人だけでなく野生動物の生息地にもなっている都市において、人の活動や都市の資源が野生動物に与える影響を理解することは不可欠です。
■人による野生動物への餌付け
都市で野生動物が生き抜く上で餌の確保は重要です。野生動物への餌付けは、都市における野生動物の生存や繁殖を助ける保全活動として広く行われてきました。しかし近年では、必ずしも餌付けが野生動物の生存や繁殖に貢献せず、生物種や状況に応じてその影響が異なることがわかってきました。また、餌付けは多様な野生動物を対象に行われているにも関わらず、ほとんどの研究は鳥類が対象であり、哺乳類に対する餌付けの影響は十分にわかっていませんでした。都市における野生動物の生息を補助し、生物多様性の向上を目指す上でも、餌付けが野生動物の生存や繁殖に対してどのような影響を与えるかを知る必要があります。
■都市で生きるエゾリス
本研究では、調査対象として北海道帯広市に生息し、都市では日々餌付けをされるエゾリスに着目しました。多くの哺乳類は夜に活動しますが、エゾリスは日中に活動します。そのため、捕獲や観察が比較的容易であり、これまで十分に知られていなかった哺乳類に対する餌付けの影響や、都市での生態について広く理解することができます。
これまでの研究により、帯広市の都市部に生息するエゾリスは餌付けによって食性が変化(リスが好む木の実を一年中豊富に利用)し、その結果、春におけるメスの体重が増加することがわかっていました (Takahata et al. 2023)。この体重増加は、胎児の増加や脂肪蓄積などによって繁殖成績が向上する可能性を示すものでしたが、その実態について検証はされていませんでした。
研究の内容
本研究では、リスの繁殖時期である3月から7月まで、個体ごとの繁殖状態(腹部・生殖器の様子など、図1)について毎日記録しました。出産日、出産回数、出産年齢などの個体ごとに得た記録をもとに、繁殖状態について都市と郊外に生息する集団間で比較をしました。その結果、都市のリスは郊外のリスと比較すると、繁殖状態が良いことがわかりました。
図1. 同一個体の繁殖ステージによる外見の変化。腹部や乳、生殖器の様子を毎日観察することで、リスがどの繁殖ステージにあるか理解することができる。妊娠後期には腹部の膨らみが確認でき、出産直後には腹部が急激にしぼむ。授乳中には乳頭が目立つようになる。
まず、集団の中で出産をするメスの割合が都市で高いことがわかりました。出産をした年齢をみると、郊外では2歳から4歳までの出産しか観察されなかったにも関わらず、都市では1歳から5歳までの出産が観察されました。この繁殖開始年齢の若さが、都市で妊娠率が高い結果としてあらわれた可能性があります。さらに、郊外と比べて都市のリスは、1ヶ月ほど早い時期に出産をしていることがわかりました。繁殖時期が早まることにより、通常一年に一度しか出産しないリスが二度出産することもわかりました。巣立たせた子の数を見ると、郊外では平均1.5匹巣立たせるのに対し、都市では平均3匹巣立たせることがわかりました。つまり、生涯に巣立たせるであろう子の数が、郊外よりも都市のリスで多いことが示唆されました。
社会的な意義
世界的に都市化が進み、野生動物が本来生息していた自然環境が減りゆく中で、私たちは人と自然、そして野生動物との関係性を見直す必要があります。多様な種(人だけでなく多様な生物)が生息できる都市環境を構築することは、野生動物に対して自然に代わる生息地を提供するだけでなく、人には自然との触れ合いを提供することから、持続可能な未来を目指す上で不可欠と言えるでしょう。人や野生動物にとって住み良い都市環境を作るためにも、人の活動が自然や野生動物にどのような影響を与えるのか理解することは大切です。
本研究により、餌付けは都市のエゾリスの繁殖状態を向上させることが明らかになりました。餌付けは、リスの繁殖に貢献し、都市への適応を促進することを示唆するものであると言えます。一方で、過度な餌付けは、人に慣れすぎることや、人への咬傷被害など、人と野生動物との間で軋轢を生む要因となる可能性もあります。本研究の成果は、餌付けが野生動物の生態に与える影響を科学的に示したものであり、自治体や都市公園の管理者が適切な餌付けガイドラインや都市生態系の管理方針を検討する上で重要な根拠となるでしょう。餌付けなどの人の活動が容易に野生動物の生態を改変させることも示すため、人の野生動物との適切な関わり方を再考する機会を提供するものであるとも言えます。
論文情報
本件に関するお問い合わせ先
(研究内容について)
- 立命館大学 (OIC総合研究機構) (専門研究員/ 日本学術振興会特別研究員PD)
高畑 優 Email. yutkht(at)fc.ritsumei.ac.jp
(報道について)
- 立命館大学広報課
TEL.075-813-8300 Email. r-koho(at)st.ritsumei.ac.jp - 総合研究大学院大学 総合企画課 広報社会連携係
TEL.046-858-1629 Email. kouhou1(at)ml.soken.ac.jp
(at)を@に変更して送信してください。