2026.08.05

【プレスリリース】全ゲノム塩基配列で解明:ニホンイノシシとリュウキュウイノシシは共通祖先から進化していた

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本研究で明らかになったニホンイノシシとリュウキュウイノシシの進化の歴史

【概要】

  • 研究内容:日本列島のイノシシ2亜種について、ニホンイノシシ5個体とリュウキュウイノシシ2個体の全ゲノム塩基配列(1)を新たに決定し、世界の他のイノシシと比較することで、遺伝的な関係を解析した
  • 研究結果①:ニホンイノシシとリュウキュウイノシシは共通の祖先を持つこと、ニホンイノシシ/リュウキュウイノシシはロシア東部や中国北東部の北東アジアのイノシシ集団と最も近縁であることが明らかになった
  • 研究結果②:ニホンイノシシについては、過去に北東アジアのイノシシ集団と交雑した可能性があることが明らかになった

【研究の背景】

 日本列島には、ニホンイノシシとリュウキュウイノシシの2亜種の野生イノシシが生息しています。ニホンイノシシは本州・四国・九州に生息しており、リュウキュウイノシシは琉球列島に生息しています。また、リュウキュウイノシシは世界の他地域のイノシシやニホンイノシシと比較して小型であるという特徴があります。【図1】

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図1:ニホンイノシシとリュウキュウイノシシの分布域

 このように、ニホンイノシシとリュウキュウイノシシは比較的近い地域に生息しているにもかかわらず、生息環境や形態に異なる特徴をもっています。しかし、両者がそれぞれ異なる祖先から進化したのか、共通の祖先から分岐したのかは、これまで明らかになっていませんでした。また、ユーラシア大陸に生息する野生イノシシと、ニホンイノシシおよびリュウキュウイノシシとの進化的な関係についても、十分に解明されていませんでした。

 全ゲノム塩基配列を解析することで、こうした謎を解く手がかりを得ることができます。しかし、これまでにニホンイノシシとリュキュウイノシシに着目した全ゲノム塩基配列解析の報告はありませんでした。

【研究の成果】

 そこで本研究では、ニホンイノシシ5個体とリュウキュウイノシシ2個体の全ゲノム塩基配列を新たに決定して研究に用い、日本列島のイノシシ2亜種と世界のイノシシとの遺伝的な関係を明らかにしました。ニホンイノシシとして本州の栃木県、愛知県、京都府からそれぞれ1個体、四国の徳島県から1個体、九州の佐賀県から1個体を用い、リュウキュウイノシシとして沖縄本島と石垣島からそれぞれ1個体を用いました。これらの個体の全ゲノム塩基配列を次世代シークエンサー(2)により決定し、世界各地のイノシシ・ブタのゲノム情報と合わせて解析を行いました。【図2】。

図2
図2:サンプル産地の地理情報

 ニホンイノシシとリュウキュウイノシシと世界各地のイノシシ・ブタとの系統関係を調べるため、系統樹(3)を作成しました。その結果、ニホンイノシシとリュウキュウイノシシは単系統群(4)を形成しました。この結果は、ニホンイノシシとリュウキュウイノシシは共通の祖先を持つことを示しています。また、ニホンイノシシ/リュウキュウイノシシと大陸のイノシシ集団を比較すると、ロシア東部や中国北東部の北東アジアのイノシシ集団と最も近縁であることがわかりました。【図3】

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図3:ニホンイノシシ・リュウキュウイノシシと世界のイノシシ/ブタとの遺伝的関係を示す系統樹。
枝の分岐部に記載した数字は、その分岐の信頼性(%)を示し、100に近いほど信頼性が高いことを表す。*は信頼性100%を示す。

 さらに、日本列島のイノシシ2亜種と大陸のイノシシで、過去に交雑があったかどうかを調べました。その結果、ニホンイノシシについては、過去に北東アジアのイノシシ集団と交雑した可能性があることが明らかになりました。また、リュウキュウイノシシについては、北東アジアのイノシシ集団と交雑した可能性は検出されませんでした。この結果から、ニホンイノシシ集団とリュウキュウイノシシ集団が分化した後に、ニホンイノシシ集団と北東アジアのイノシシ集団の交雑が起こったことがわかりました。この交雑がおこった背景を考えると、大陸のイノシシ集団が日本列島へ移動してニホンイノシシ集団と交雑した可能性と、逆にニホンイノシシ集団が北東アジアの集団に移動して交雑した可能性があります。この2つの可能性について、どちらが確からしいかについては今後の研究課題となります。

【今後の展開】

 本研究の成果は、日本列島のイノシシの進化を明らかにする上での重要な一歩となりました。しかし、本研究だけでは解明できなかった課題も残されています。今回の全ゲノム塩基配列解析やこれまでの考古学的証拠だけでは、ニホンイノシシとリュウキュウイノシシの祖先集団が、どのようなルートで大陸から日本列島へ広がったのかを特定することはできません。また、ニホンイノシシは過去に北東アジアのイノシシ集団と交雑した可能性が示されましたが、その時期や詳しい経緯はまだ明らかになっていません。さらに、イノシシがどのようにして大陸と日本列島の間を移動し得たのかという点も課題として残っています。

 今後、日本列島やその周辺地域の現代および古代のイノシシのゲノムデータがさらに蓄積されることで、日本列島のイノシシの進化史をより詳しく明らかにできると期待されます。

【用語解説】

(1)全ゲノム塩基配列
1個体の生物がもつDNA全体の塩基の並びを指します。全ゲノム塩基配列には、その個体の遺伝的な特徴を示す情報が含まれています。個体ごとの塩基配列の違いを比較することで、生物同士の遺伝的な近さがわかり、その結果から、集団の成り立ちや過去の交雑の歴史などを推定することができます。

(2)次世代シークエンサー
DNAの塩基配列を大量に読み取り、決定することができる装置です。全ゲノム塩基配列のような膨大な量の塩基配列を高速に決定できるため、個体の持つ遺伝的特徴や集団間のつながりを解析するために広く用いられています。

(3)系統樹
生物や個体同士の進化的な関係を木の枝分かれのように表した図です。進化的に近い関係にある個体同士ほど近い位置で枝分かれし、遠い個体同士ほど遠い枝分かれするように表現されます。

(4)単系統群
共通祖先から派生した全ての子孫を含む生物のグループを指します。

【論文情報】

  • 論文タイトル: Whole-genome analyses reveal the phylogenetic history of Japanese and Ryukyu wild boars
  • 掲載誌: BMC Ecology and Evolution
  • 掲載日: 2026年7月11日
  • 著者:糸井梨香子(総研大 学生)、David Gamarra(農研機構 契約研究員)、寺井洋平(総研大 准教授)、五條堀淳(総研大 講師)、谷口雅章(農研機構 上級研究員)
  • DOI: 10.1186/s12862-026-02556-2

【謝辞】

 本研究はJSPS外国人特別研究員(PE21054)および科研費 学術変革領域研究(A) 24H01588の助成を受けたものです。

【問い合わせ先】

研究内容に関すること

  • 五條堀 淳(総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター・講師)
    電子メール:gojobori_jun(at)soken.ac.jp
  • 谷口 雅章(農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門・上級研究員)
    電子メール:taniguchi.masaaki678(at)naro.go.jp

報道担当

  • 国立大学法人 総合研究大学院大学
    総合企画課 広報社会連携係
    電話:046-858-1629
    電子メール:kouhou1(at)ml.soken.ac.jp
  • 農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 研究推進室 渉外チーム
    遠藤真咲
    お問い合わせフォーム:https://www.naro.go.jp/inquiry/index.html

(at)を@に変更して送信してください。

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