2026.10.27

【プレスリリース】家族で緊密に協力する魚の発見

【概要】

  • 動物において、親のみならず、親以外の個体も子の世話を行う種がいます。このような繁殖様式は協同繁殖と呼ばれています。協同繁殖の起源は一夫一妻の家族群と考えられており、子が親元に留まり、世話を含む様々な協力行動を行うようになったと考えられています。
  • 協同繁殖は哺乳類、鳥類などで確認されてきましたが、魚類においては東アフリカに生息するカワスズメ科の種に限られてきました。
  • 本研究では、東南アジアに生息するベタブロウノルムという淡水魚を飼育条件にて観察し、家族群のなかで、子が縄張りへの侵入者を積極的に攻撃し、親の負担を軽減していることを発見しました。また、オス親がいない巣に子が代わりに滞在し、「留守番」する行動も観察されました。これらの結果は、本種が家族で緊密に協力し合っていることを示しています。本研究から、ベタブロウノルムは、協同繁殖種であるとは言えないものの、その中間的な特徴を持つことが判明しました。

図1 ベタブロウノルムのオス(上)とメス(下)。本種はキノボリウオ亜目オスフロネムス科の野生(ワイルド)ベタの一種であり、美しい観賞魚として有名なベタ(スプレンデンス)の近縁種である。体長は雌雄ともに、およそ3cmほどである。オスには鮮やかなエメラルド模様があることが多い。オスとメスがペアで繁殖する一夫一妻型であり、オスが作成した泡巣にメスが産卵する。オスは泡巣に留まり、卵の防衛を行う。成長した子の存在に親は寛容であり、同じ場所で生活する。

【研究の背景】

 ヒトの家族の特徴として、親以外による子の世話が挙げられます。祖母や祖父、年上のきょうだいが幼い子の面倒を見ることによって、子は危険を避けることができ、健やかな成長がもたらされます。また、世話してくれる人の存在によって、親は子育ての負担を低減することができます。このように親以外の個体が子の世話をする繁殖システムは協同繁殖と呼ばれています。協同繁殖は、ヒト以外の哺乳類や鳥類でもみられます。 このような協力的社会の進化は、生物学における謎の一つとされてきましたが、一夫一妻型の核家族がその起源であると考えられています。核家族は血縁関係にある親子やきょうだいで構成され、協力行動が進化しやすい環境です。そのような集団において、子が親元に留まり、さまざまな協力行動を行うようになったと考えられています。
 協同繁殖は、一部の哺乳類や鳥類において確認されています。魚類では、東アフリカのタンガニーカ湖に生息するカワスズメ科(シクリッド)の30種ほどで知られています。これらの種では、ヘルパーは卵の世話、巣の整備、縄張りの防衛など、多様な協力行動を行います。その一方で、魚類において、シクリッド以外に協同繁殖する種がいるのかどうかは不明でした。1992年に記載されたベタブロウノルム(以下、ブロウノルムと略記)は、成魚以外の個体が縄張りに侵入した他種を攻撃するという高い協力性を示すことから、協同繁殖種である可能性が示唆されていました(Witte and Schmidt 1992)。しかし、この点を定量的に検証した研究はなく、詳細は不明でした。そこで、私たちはブロウノルムを飼育下の水槽条件にて詳細に観察し、本種が協同繁殖種とまでは言えないものの、核家族と協同繁殖の中間段階にある高い協力性を持つことを世界で初めて定量的に明らかにしました。論文は10月21日、学術誌Behavioral Ecology and Sociobiologyに掲載されました。

【研究の成果】

 本研究では、家族で飼育されているブロウノルムのなわばりに別種を侵入させる実験を行い、侵入者への攻撃を記録しました(図2)。その結果、親である繁殖個体のみならず、その巣で生まれ、成長した稚魚(以下、劣位個体)も侵入者に対して頻繁な攻撃を行いました(図3)。このことは劣位個体が縄張りの防衛を重要な役割を果たしていることを示しています。また、この行動実験の際に、泡巣に繁殖オスがいない時に、劣位個体が泡巣に滞在する「留守番」行動が、一例のみですが観察されました。

図2 侵入者実験の概要図。家族群(左)に対して、透明な円筒状のプラスチックケースに入れた他種を提示し(右上)、それぞれの個体が侵入者を何回攻撃したかを記録した。コントロール(対照実験)として、ケースのみを水槽に入れる実験も行った(右下)。

図2 侵入者実験の概要図。家族群(左)に対して、透明な円筒状のプラスチックケースに入れた他種を提示し(右上)、それぞれの個体が侵入者を何回攻撃したかを記録した。コントロール(対照実験)として、ケースのみを水槽に入れる実験も行った(右下)。

図3 繁殖オス、繁殖メス、劣位個体が、ケースに入った侵入者、またはケースを攻撃した回数を箱ひげ図とデータ分布で示す

図3 繁殖オス、繁殖メス、劣位個体が、ケースに入った侵入者、またはケースを攻撃した回数を箱ひげ図とデータ分布で示す。縦軸は15分間の観察中に起きた、一個体あたりの侵入者への攻撃回数。繁殖オス、繁殖メス、劣位個体、全てのいずれの個体においても、侵入者に対する攻撃が高頻度で見られた。また、劣位個体による攻撃回数は、繁殖オス、繁殖メスと統計的に違わなかった。各データポイントを白い点で示し、箱の中央の太い線がデータの中央値を表す。箱の上端と下端は、それぞれデータの上位25%と下位25%の範囲を示し、箱から伸びる線はデータの広がりを表している。

 劣位個体の役割をさらに検証するために、隔離実験を行いました。協同繁殖種では、劣位個体を実験的に隔離すると、親個体はより多く協力行動をするようになります。ブロウノルムにおいても、繁殖個体による侵入種への攻撃は、劣位個体を隔離している間に増加し、劣位個体の復帰後に減少しました。このことは劣位個体の存在が繁殖個体の負担を低減させていたことを示しています。

図4 劣位個体の隔離実験の概要。家族群から劣位個体を別水槽に隔離し、その状態で侵入者を提示する実験を行った。その後、およそ1週間後に劣位個体を群れに戻した。

図4 劣位個体の隔離実験の概要。家族群から劣位個体を別水槽に隔離し、その状態で侵入者を提示する実験を行った。その後、およそ1週間後に劣位個体を群れに戻した。

図5 劣位個体を隔離した期間中の繁殖オス(左)、繁殖メス(右)の侵入者への攻撃頻度の比較。劣位個体が不在の間(隔離中)、繁殖個体は侵入者への攻撃頻度を上昇させた。また、劣位個体を水槽に戻した後(復帰後)には、繁殖個体の攻撃頻度は減少した。箱ひげ図の詳細については、図4の説明を参照のこと。

図5 劣位個体を隔離した期間中の繁殖オス(左)、繁殖メス(右)の侵入者への攻撃頻度の比較。劣位個体が不在の間(隔離中)、繁殖個体は侵入者への攻撃頻度を上昇させた。また、劣位個体を水槽に戻した後(復帰後)には、繁殖個体の攻撃頻度は減少した。箱ひげ図の詳細については、図4の説明を参照のこと。

 これらの結果から、ブロウノルムは家族が緊密に協力して繁殖する生態を持つことがわかりました。ただし、本研究では、劣位個体から卵や稚魚への直接の世話行動は観察されなかったために、劣位個体が子育てを積極的に手伝っているとは言えません。このため、ブロウノルムを協同繁殖種と呼ぶことはできず、高い協力性という協同繁殖の特徴を部分的に有する中間状態にある種であると言えます。そのような中間的繁殖様式を持つ種は、鳥類や爬虫類(トカゲの仲間)のごく一部では報告されているものの、魚類においては知られていませんでした。このため、本研究は、様々な動物において協力的社会が段階的に進化してきたことを示しています。

【今後の展開】

 本研究によって、これまでに想定されていたよりも、魚が複雑な社会を形成していることがわかりました。今後、さらなる研究によって、動物社会の複雑性や協力的社会の進化に関する新しい知見がもたらされるはずです。

    引用文献

    Witte K-E, Schmidt J (1992) Betta brownorum, a new species of anabantoids (Teleostei: Belontiidae) from northwestern Borneo, with a key to the genus. Ichthyol Explor Freshw 2:305–330


    関連文献

    Nomano FY, Kutsukake N (2022) Aggression induced by ornament similarity is limited to females in a mutually ornamented fish, Betta brownorum. Anim Behav 190:233–240. https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2022.05.018
    Satoh S, Okuno S, Ito T et al (2026) Repeated evolution of cooperative breeding and life history traits in Lake Tanganyika cichlids. Commun Biol 9:567. https://doi.org/10.1038/s42003-026-09814-5 プレスリリース「魚の“助け合い子育て”は何度も進化していた―アフリカの古代湖シクリッドで小型化と少産化が社会の複雑性に関与―」:https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2026-04-06-1

    <お願い>

    オルトメトリクス指標の向上のため、ウェブやSNSに記事を掲載してくださる際は、必ずDOIのURL( https://doi.org/10.1007/s00265-026-03813-6)をリンクしていただくようお願い申し上げます。
    参考:生物科学学会連合から報道機関関係者の方々へのお願い
    https://seikaren.org/wp-content/uploads/2023/02/to-media.pd

【謝辞】

本研究はJSPS科研費・基盤B(17H03733)、日本学術振興会・特別研究員(20J01170, 18J00154)の助成を受けたものです。

【論文情報】

  • 論文タイトル:Behavioural response to an intruder in family-living anabantoid fish, Betta brownorum
  • 掲載誌:Behavioral Ecology and Sociobiology
  • 著者:沓掛展之(総合研究大学院大学・統合進化科学研究センター・教授) 佐藤駿(京都大学・白眉センター、理学系研究科・特定助教) 野間野史明(総合研究大学院大学・統合進化科学研究センター・特別研究員)
  • 掲載日:2026年10月21日
  • DOI:10.1007/s00265-026-03813-6

【問い合わせ先】

  • 研究に関すること
     沓掛展之(総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター 教授)
     電子メール:kutsu(at)soken.ac.jp
  • 報道担当
    国立大学法人 総合研究大学院大学
    総合企画課 広報社会連携係  
    TEL:046-858-1629  
    電子メール:kouhou1(at)ml.soken.ac.jp
  • 国立大学法人 京都大学
     広報室 国際広報班  
    電話: 075-753-5727  
    電子メール:comms(at)mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
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