2026.06.15

【プレスリリース】ツルもペアダンスを阿吽の呼吸で踊る

図
タンチョウのペアダンス

【概要】

  • 野生タンチョウのペアダンス(いわゆる、鶴の舞)は、ヒト以外の動物が踊るペアダンスのうち、最も複雑な構成をしています。本研究は、ダンスを構成する行動の順序とタイミングがつがいのやり取りに重要な役割を果たしていることを明らかにしました。
  • ペアダンスを構成する行動の順序や組み合わせには複雑な規則性があり、二個体が行動を同調させる場合や、片方の行動が相手の次の行動に影響を与える場合などの様々なパターンがあることがわかりました。また、オスの方がメスよりも長く踊っているなど明確な性差があることを見出しました。
  • 本研究はタンチョウのペアダンスという複雑な双方向コミュニケーションとその規則性を明らかにした世界で初めての研究であり、動物の複雑なコミュニケーション研究の基盤を築くものです。

【研究の背景】

 動物のペアが多種多様な動作(ディスプレイ)を同時に行うことで、双方向のコミュニケーションをすることが知られています。その代表例が、鳥類のつがいが行う洗練されたダンス(ペアダンス)です。これまでの多くの研究では、ペアを一個体ごとに分けて別々に分析するため、二個体の複雑なやり取りに潜むルールや構造を明らかにすることが難しいという問題点がありました。例えばフィギアスケートのペア競技は一人ずつの演技だけでなく、ペアの合わせた演技を評価する必要があります。同様に動物のペアダンスも二個体の行動を合わせて分析しなければ、その全容を明らかにすることはできません(図1)。

 本研究では、ヒト以外の動物が踊るペアダンスのうち、最も複雑な野生タンチョウのペアダンスを詳細に分析しました。ペアダンスは繁殖するつがいにより行われ、最長3分にも及び、「鶴の舞」として一般に知られています。タンチョウのつがいがペアダンスでどのようなやり取りを行なっているのか、ペアダンスの「振り付け」はどのようになっているのかなど、その詳細はほとんどわかっていませんでした。

 タンチョウは国内では北海道に年中、生息しており、特別天然記念物に指定されています。北海道の野生個体はNPO法人タンチョウ保護研究グループの精力的な活動によって、足輪による個体識別や個体の性別のデータが長期で蓄積されており、ペアダンスをはじめとする行動を研究する上で絶好の対象です。

【研究の成果】

 本研究チームは北海道・釧路において、野生タンチョウ21つがいを観察して、ペアダンスを99例撮影しました。その映像をもとに雌雄それぞれで行動要素(図2)の順序や継続時間などを記録して、つがいのやり取りを複数の統計手法を用いて解析しました。

 その結果、特に3つの特定の行動要素(横つつき、お辞儀、背曲げ)の順序・組み合わせがペアダンスの骨格となっていることがわかりました(図3)。さらに行動の時間的な関連性を定量的に分析した結果、相手の行動要素に応じて直後の行動要素を決めている場合があり、つがい同士のタイミングがペアダンスの鍵であることが分かりました。これらのことから、行動要素の順序とタイミングがつがいのコミュニケーションに重要な役割を果たしていることが明らかになりました。

 また、タンチョウの外見にはほとんど性差がみられないにも関わらず、ペアダンスにはいくつかの点で性差が見つかりました。まず、オスはメスよりも長くダンスを続けていることが確認されました。また、やり取りの方向性を明らかにする移動エントロピーを用いた分析の結果、どちらかというとオスよりもメスの方がペアダンスの内容を決める主導権を握っていることが明らかになりました。

【今後の展開】

 本研究はペアダンスにおける双方向なやり取りの全容を定量的に明らかにすることで、つがいが相手に合わせて踊っていることを示したものです。この成果はタンチョウのペアダンスを理解するだけでなく、双方向のやり取りを二個体で合わせて考えることの重要性を示しています。今後は本研究の枠組みを洗練させて、ペアダンスだけでなく、他の双方向なやり取りに広く応用することで、それぞれの動物が双方向で複雑なコミュニケーションをどのように行なっているのかを詳細に解明できると期待されます。

【論文情報】

  • 論文タイトル: A novel framework for identifying sequential and temporal structure of mutual displays: An application to crane dances
  • 掲載誌: Animal behaviour
  • 掲載日: 2026年6月11日
  • 著者:
    武田浩平(現:大阪大学 SLiCSセンター・特任助教(常勤)、研究当時:総合研究大学院大学 先導科学研究科・特別研究員)
    大槻久(総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター・教授)
    長谷川眞理子(研究当時:総合研究大学院大学 先導科学研究科・教授)
    沓掛展之(総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター・教授)
  • DOI: 10.1016/j.anbehav.2026.123615

【参考情報】

著者らによるこれまでのプレスリリース
「繁殖していないペアほど息の合ったダンスを踊る:タンチョウから定説を覆す発見」(2018年)
https://www.soken.ac.jp/news/2018/20181204.html

【謝辞】

 本研究の支援に対して、タンチョウ保護研究グループのみなさまに心より感謝申し上げます。また、フィールド観察のご協力に対して、阿寒国際ツルセンターに感謝いたします。本研究はJSPS科研費 16K14806 の助成を受けたものです。

【問い合わせ先】

研究内容に関すること

  • 武田浩平(現:大阪大学 SLiCSセンター・特任助教(常勤)、研究当時:総合研究大学院大学 先導科学研究科・特別研究員)
    電子メール:k.f.takeda(at)gmail.com
    Web サイト:https://kftakeda.weebly.com

報道担当

  • 国立大学法人 総合研究大学院大学
    総合企画課 広報社会連携係
    電話:046-858-1629
    電子メール:kouhou1(at)ml.soken.ac.jp

(at)を@に変更して送信してください。

図1

図1. 従来の研究は一個体ごとに別々に分析していたが、本研究は二個体の行動を合わせて分析することで、双方向なやり取りの全容を明らかにした。

図2

図2. ペアダンスの行動要素一覧。ペアダンスは14の行動要素からなり、雌雄それぞれが次々に異なる要素によって踊る。

図3

図3. 横つつき、お辞儀、背曲げという3つの行動要素がペアダンスの順序と組み合わせを特徴づけていた。点線は行動の同調する組み合わせを示し、矢印は行動の順序を示す。

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