第8回(2016年1月19日)

Yasu通信

OKADA Yasunobu Ph.D. President
健康な心身と高いモチベーションで研究者アイデンティティの確立を

Yasu通信 第8回(2016年1月19日)

総研大生の皆さん、新年明けましておめでとうございます。元気にがんばっていますか?

皆さんの殆どは大学共同利用機関という日本一の、そして世界トップクラスの研究環境に身を置いています。皆さんが高いモチベーションを持って勉学と研究に励むことができれば、おのずから優れた研究者・科学者への道が拓かれます。

高いモチベーションを持ち続けるには、いくつかの条件が必要となります。その1つは、マルチな天才でもないかぎりは、他の興味深い道を断念することです。若い時には誰でも、特にポテンシャルの高い人ほど多くの事に興味を惹かれて、それらのうちのいくつかに 耽りがちとなります。しかし、研究に強く惹かれて総研大に入学し、高い専門性と広い視野を持った一流の研究者を目指す道を選んだ諸君には、他の道を棄てて研究とそのための勉学に集中する時期を過ごす必要があります。これは、おそらく研究者に限ったものではないことは、河合隼雄先生(注1)がその最後の著書「私が語り伝えたかったこと」の中で、青年が身を固める―即ち"自我同一性の確立(ego-identity)"をする―ためには「断念する力が要る」、つまり「何かを選ぶというなかには、その代りにこれはやめるということになるんだというあきらめというものがある。あきらめる力をもっていない人はエゴ・アイデンティティというものは確立しない」と述べていることからもわかります。しかし、研究の道に進むにはこの点がより一層決定的に重要です。

高いモチベーションを維持するためのもう1つの条件は、肉体的・精神的健康を保つことです。肉体的健康を保つための秘訣は、何も特別のことではなく、ふつうの食事(特に朝食が大事)と、規則的な生活と、充分な睡眠と、適度な運動(特によく歩くこと)に尽きるでしょう。この他で、私自身が永く続けてきたことで最も重要なことと思うのは、「手洗い」と「うがい」の励行です。起床時や入浴時ばかりでなく、帰宅時には(たとえ短時間の外出であったとしても)必ずそのつど毎回それらを行うことです。これによって感冒にはまずかかりません。そして、この72年の間、大病も入院の経験もありませんでした。私は長年のデスクワークと電気生理実験時の「うつむき」姿勢によって四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)と腰痛(腰椎椎間板ヘルニア)持ちとなりましたが、毎朝夜に「肩こり体操」と「腰痛体操(私の場合は、マッケンジ-体操と腹筋体操)」を欠かさず行ってこれらを克服しています。精神的健康にとっての一番は、「裏」のない生活をして、大峯巌先生(注2)が常々おっしゃるように「何事も楽しむ」こと(にすること)に尽きるでしょう。試練には誰もがいくつも遭遇しますが、それらは次の発展のための準備であると受けとめることです。どうしても解決できないことがあれば、あまり溜めこまずに、友人仲間や指導教員に相談するとか、専攻や葉山に置かれている相談窓口を利用するとよいでしょう。外国人留学生には、英語で相談することができる第三者相談窓口(TELL Counseling)を昨年12月より開設しましたので、ここで対面や電話あるいはSkypeでカウンセリングを受けることができるようになりました。

健康な心身と、研究者アイデンティティの確立と高いモチベーションは相互作用しつつ三位一体を形成しているのです。本年が皆さんのキャリアパスにとって、とても良い年になりますよう、心から祈念しています。では、また!

追伸:総研大には、研究者・科学者を志す総研大生のすぐれた学位研究を奨励するために「総研大未来科学者賞」があります。本年度の第2回募集は終了しましたが、応募が4件しかありませんでした。次回には多数の在学生からの応募を期待しています。

注1)元国際日本文化研究センター所長、総研大名誉教授

注2)総研大構造分子科学専攻長、分子研所長

PAGE TOP