時代の風~第45回 「18歳意識調査」 夢や希望、大人が奪った(2021年6月6日)

時代の風

私は、2016年4月から、毎日新聞に『時代の風』というコラムを、6週間に1回、連載しています。 現代のさまざまな問題を、進化という別の視点から考えていきますので、ご興味のある方はご一読ください。

「18歳意識調査」 夢や希望、大人が奪った

日本財団が行っている「 18 歳意識調査」というものがある。 18 歳の若者を対象に、昨今のいろいろな社会課題に関する意見を調査している。 2019 年には、「国や社会に対する意識」に関して、日本を含む 9 カ国で調査が行われた。インド、インドネシア、ベトナム、中国、韓国、英国、米国、ドイツと日本で、 17 歳から 19 歳の各国 1000 人ずつを対象とした。

19年といえば、今から 2 年前。新型コロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)で世界中が非常事態になる前のことだ。もしかすると、若者たちの意識もそれに応じて変化したかもしれないが、 19 年時点での世界の若者たちの意識を見てみよう。この結果に私はがくぜんとし、日本の将来を真剣に憂える思いを抱いた。

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調査項目の第 1 は、「自分を大人だと思うか」である。日本で「そう思う」若者は、全体の 29.1 %だった。つまり 3 分の 1 だ。中国が一番高くて 89.9% 。各国ともだいたいが 80% 台。韓国の 49.1 %とベトナムの 65.3 %が特に低いのだが、日本はそれらと比べても特別に低い。

2番目の質問は、「自分は責任がある社会の一員だと思うか」である。日本で「そう思う」と答えたのは 44.8 %だった。半分に満たない。中国が一番高くて 96.5 %で、各国ともだいたい 80 %から 90 %である。それらに比べれば低いのが韓国で、 74.6 %なのだが、日本はそれにもほど遠い。

3番目の質問は、「将来の夢を持っているか」である。日本で「持っている」と答えたのは 60.1% 。 4 割は夢がない。この質問はインドネシアが一番高くて 97% 、中国 96 %で、ほとんど 90 %以上である。若者は、みんな夢を持っているのが当たり前なのではないか?

いつも数値が低い韓国でさえ 82.2 %である。

4番目は、「自分で国や社会を変えられると思うか」という質問である。日本で「そう思う」と答えた若者は、たったの 18.3 %しかいない。ほとんどあきらめの状態だ。一番高いのはインドの 83.4% 。ほかはだいたいにおいて、四捨五入して 50 %から 70 %である。ここでも低いのは韓国の 39.6% であるが、それと比べても日本は特に低い。

5番目は、「自分の国に解決したい社会課題があるか」だ。日本で「ある」と答えた若者の割合は 46.4 %。半分弱である。世界ではほとんどが 70 %台。韓国でも 71.6 %である。問題意識を持つという点でも、日本はひどく低い。

6番目は、「社会の課題について家族や友人と積極的に議論しているか」である。日本で「そうだ」と回答した若者は 27.2% 。 3 分の 1 に満たない。一番高いのは中国の 87.7 %で、だいたいの国では 70 %台である。いつも低いのは韓国だが、それでも 55% 。日本の若者が、いかに何も議論していないかがわかる。

最後に、「自分の国は将来良くなると思うか」という質問である。日本では、「良くなると思う」と答えた割合は、たったの 9.6 %だった。逆に「悪くなると思う」が 37.9% 、わからないが 32 %である。「良くなる」と答えた割合は、中国が 96.2% 、インドが 76. 5% 、インドネシアが 56.4% 、ベトナムが 69.6% と、途上国は概して高い。

これに対して、先進国では、米国が 30.2% 、英国が 25.3% 、ドイツが 21. 1 %である。韓国も 22 %だ。先進国は、どこでも閉塞感に見舞われているのだろう。現在の途上国は、確かに以前よりも今の方が良くなっているという実感が持てる。その延長で、将来も良くなるという自信が出てくるのだろうが、先進国では、概してそうはいかない。それにしても、日本の若者で将来が良くなると思う割合がたった 9.6 %なのは低過ぎないか。

逆に「悪くなる」と思う若者が 3 分の 1 ほどいるのは先進国である。それも、日本は 37.9 %なので、それらを上回る。「わからない」という回答が多いのも先進国だ。これも、現状の閉塞感を表しているに違いない。中国など、「わからない」と答える若者はたった 2.6 %しかいないのだ。

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今の若者たちは、自分が社会を変える気概に乏しく、問題をみんなで議論することもなく、将来に夢も希望も持っていない。こんな状態を作り出したのは誰か?それは今の大人たちである。

( 2021 年6月6日)

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